剣先がグラグラ揺れる。
脳筋男が唖然としているのがわかった。
当然だろう、彼はまだ少しも力を入れていないのだから。
あー、どうして皆、こんなものが引き抜けないのだろう。
もう、ここまで来たら抜けるでしょ・・・ぐらいの微妙な位置まで剣を引き上げ、そして、余は満を持して柄から手を放した。
「いたぁ」
わざと大仰に叫び、勢い余って倒れたフリをする。
愚かな観衆が、無様な余を指差して笑った。
さあ抜け、脳筋男よ!
ここまでお膳立てしてやったのだ。
聖剣を単独で引き抜いて、全ブリテンの支配者になるがいい!
ん・・・どうした?もう、抜いたのか?
しばし静寂が訪れた。
脳筋男は剣をじっと見つめたまま動かない。
どうしたのだ!早く引き抜け!
何をためらっている!
脳筋男はフッとため息をつくと、剣の柄から手を放した。
指一本分ほど浮いていたであろう剣先が再び石に突き刺さり、かすかな金属音を立てるのがわかった。
脳筋男は仰向けに倒れている余に近づき、そして囁いた。
「俺に花を持たせようとしたのか?」
おい、なにを勘違いしている、脳筋男よ!
優しい目をするな!
すべては余の策略だというのに!
「あんたこそ本当の王様だ」
脳筋男はそう言って立ち上がり、ウィンクする。
やめろ、気色悪い。
「貴殿が国王になるのなら、俺は喜んで家来になろう」
脳筋男はそう言い残すと、罵声も意にも介さずに剣の刺さった石上から去って行った。
おい、待ってくれ、脳筋男よ!
余はお前に花を持たせようなんて、これっぽちも思ってない!
むしろ、余がお前の家来になる!
頼む、余は王様なんてなりたくないんだ!
あー、くそう。
・・・完全に作戦失敗だ。
脳筋男め、意外といい人ではないか!
しかし、善人ほど策士のはかりごとを狂わせる者はない。
エサにつられて素直に罠にかかってくれる、欲深い俗物が余は好きだ。
ふう、しかし困った。
父上は名誉を重んじる人だ。
これだけ大々的なイベントを開催して、肝心の聖剣を余が引き抜けぬとあっては・・・・。