小説

『アーサー王と抜けない聖剣』田口浩一郎(『アーサー王伝説』)

 みんな、余がブリテンを統べたユーサー王の子であることは知らないものな・・・。
 怒号の渦の中、石の上に父上と兄上が登って来る。
 そして、父上は余を抱きしめ「誇りに思います、我が王」とつぶやいた。
 あー・・・どうしよう。
 このままじゃ、本当に王様にされてしまう。

 その後、剣の引き抜かれた教会の庭では、余の国王即位を巡って激しい論争が行われることとなった。
 ユーサー王の遺言なら認めようという者もいれば、絶対認めないという者もいた。
 うーん・・・どっちかというと反対意見のほうが多かった気がする。
 で、仕切り直しとなった。
 大司教の指示で、余は聖剣をふたたび石に突き刺した。
 茶番、ここに極まる。
 余は何回この剣を引き抜けばよいのだろうか。
 だが、今度こそラストチャンスだ。絶対にこの剣を抜いてはなるまいぞ。
 先ほどまでの二度の成功は事故に違いない。
 ビギナーズラックだ。
 こんなヒゲも生えそろわぬ青二才に、王の証である聖剣が抜けるはずがない。
 この剣は抜けない。抜けないのだぞ・・・。
 余はがっちり自分に暗示をかけた。
 思い込みって結構重要。
 信じ込めば、簡単に抜けるはずの剣も揺るがぬ鉄塊のごとく……。
 指先が柄に触れた瞬間、聖剣は微妙に傾いた。
 なんでだ!お前は抜けちゃいかんのだ!
 誰にも悟られぬよう、素早く剣を元の角度に戻す。
 はぁ、まったく何だってこんな方法で王様を決めようと思ったのか。
 そもそも「剣を引き抜いたら王様になれるぞキャンペーン」の企画・立案をしたのは、他でもない余の実の父ユーサー・ペンドラゴンだったらしい。
 なんだ、その決め方は!
 どういう尺度?
 筋力?
 いちばん筋力の強いやつが、王様にふさわしいってこと?
 馬鹿なのか?
 親父、馬鹿なのか?
 お前がそんなだから、ブリテンがこんなになっちゃったんだよ!
 群雄割拠の分裂状態にさ!
 馬鹿!馬鹿親父!
・・・なんてボヤいてみたが、余にもその馬鹿の血が流れているんだなぁ。
 名君の素養ないかもなぁ。

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