ざっくり西暦500年ごろ、余はとんでもない剣を引き抜いてしまった。
「あー、いい剣みっけ」ぐらいの本当に軽いノリだった。
それというのも、兄上が馬上試合に出るための剣を忘れたからだ。
宿舎を探したが兄の剣がどこにあるかわからず、もうどんなナマクラでもかまわないと剣を譲ってくれそうな貧乏騎士を探していた、まさにその時だった・・・。
見つけてしまったのだ、石に突き刺さった奇妙な剣を。
本当に・・・本当に運悪く。
どうせ捨てられた剣だろうが、騎士が落とし物をネコババしたとあっては体裁が悪い。
周囲に誰もいないことを確認した余は、電光石火で奇妙な剣を引き抜き外套の下に隠した。
馬鹿なことをしたと思う。
「石に刺さった聖剣を抜いた者は、ブリテン全土の王として認められる」
そんなキャンペーンが張られているのを知ったのは、剣を抜いたすぐ後のことだ。
余は激しく動揺した。
エラいことをしてしまった!
ローマ帝国が撤退したブリテン島は、諸侯が血で血を洗う乱世に突入していた。
こんなヒゲも生えそろわぬ若造がブリテン王だなどと認められたら、標的にされて真っ先に殺されてしまうだろう!
ちなみに余はアーサーという。まだ十代の若い騎士だ。
エクトル卿という貴族の次男だが、実は本当の息子ではない。
ユーサー王という、かつてブリテン島を治めた王様が余の本当の父親だ。
義父のエクトル卿はそのことを隠していたようだったが、余はとうの昔に看破していた。
余をナメてはいけない。
これでも全ブリテンを統べた王の血を引いているからな。
賢いのだ。名君の素養たっぷりなのだ。
欠点といえば、ヒゲが薄いことくらい。
そう、ヒゲの薄いことくらいだ。
ならば、遠慮なくブリテン王になればいいじゃないかって?
ならない。賢いからこそ。
さっきも言ったが、王様なんて命知らずの馬鹿のする仕事だ。
こんな忌まわしい剣は、さっさと元の場所に戻してしまおう。そう思って、来た道を引き返したところが石の周りには黒山の人だかり。口々に「誰が引き抜いたのか」、「次の国王はいずこか」と騒ぎ立てている。
むむ、遅かったか・・・。
余は義兄であるケイのもとに、石から抜いた剣を持っていった。