無論、この厄介な剣と国王の座を押し付けてしまうつもりで。
兄上は「聖剣抜いて王座ゲットキャンペーン」のことをすでに知っていた。
そして、件の剣を惚れ惚れと眺めながら「もらっちゃっていいの?」とつぶやいた。
ふふん、計算通りだ。
「男らしさ」だとか「騎士の誉」だとかに弱いんだよ、兄上は。
お人好しの愛すべき兄だが、背に腹は代えられない。
兄上は剣を見て無邪気にはしゃいでいる。
浅はかだなぁ。
でも、そんな浅はかな兄上が余は好きだ。
いつまでも変わらないでいて欲しい。
さあ、兄上、急ぎこの剣の刺さっていた聖なる石の上に立ち、自らがブリテンの王であることを宣言なされませ。
兄上の目は潤んで輝きを増し、男のロマンなるものを夢想し始めているのがわかった。
ははは、チョロいチョロい。
あなたは本当にいい男だ。
ところが、父上が現れて潮目が変わった。
兄上のやつ、反省しやがったのだ!
「本当の王はアーサーです」みたいな、しおらしいことを言い出した。
父上、兄上、ちょっと余の話を聞いてください!
お前ら、「エラいぞ」とか「誇りに思う」とか言って抱き合ってるんじゃねえ!
兄上にやる!王様の座なんて兄上にやるよ!
で、いま、余は剣の突き刺さっていた石の上に立っている。
ため息を吐きながら、余は引き抜いた剣を再び石に突き刺した。
そうして、馬上試合に参加していた腕自慢の騎士たちを集めた父上は、聖剣引き抜き大会を始めたのである。
あ〜、なんという茶番。
「馬上試合に集まった騎士たちにも剣の引き抜きに挑戦してもらおう!」
「で、アーサーが剣を引き抜き、皆の前で公明正大に王として認めさせるのだ!」
余が聖剣を引き抜いたことを知った父上は、目を輝かせてそう提案した。
ホメロスの冒険譚に出てくるような超展開に、ワクワクを隠しきれない父上。
兄上とそっくりだな。血というのは争えないものなのだろう。
余にとっては迷惑千万な話だが。
しかし、まあ・・・集まった騎士の中に聖剣を引き抜ける者が現れれば、そやつに王位を押し付けることができる。
ヒヒヒ、さあ抜け!余に遠慮することはないぞ。
誰でもいいからブリテン王の座を射止めるがいい!