小説

『アーサー王と抜けない聖剣』田口浩一郎(『アーサー王伝説』)

 親父に似たとしたらないよなぁ。
 ふぅ、はっきり言って余はペシミストだ。
 快活な好人物を演じてはいるが、普段から物事を悪い方向に考えるクセがある。
 あー、いかん、このままじゃ鬱に入ってしまう。
 元気を出せ、アーサー。
 んーと・・・そうだ、むしろ楽天的な方が君主としては不適格だよな!
 いい王様ってのは、大体が悲観論者だから。つまり、思慮深いってことさ。
 そう考えるなら、余は名君の素養のかたまりではないか。
 思慮の浅い者が君主になったって、ロクな政治はしないぞ。
 まぁ、なんないけどさ、君主。
 さっきも言ったと思うが、国王になど即位した日には各地の諸侯が黙ってはいない。
 アーサーを倒せと大軍を差し向けてくるだろう。
 まあ、百歩譲ってこれに打ち勝ったとしてだ・・・。
 余の優秀さをもってすれば、可能性もゼロではなかろうが・・・。
 しかし、勝ったら勝ったで、愚民どもが要らぬ期待をするに違いない。
 やれ、不世出の英雄が現れた、我らの救世主だと。
 ま、それだけ我らブリトン人はストレスのかたまりなわけだが・・・。
 アングロ人だのサクソン人だの、野蛮な異民族が攻め入って来るってのに親分のローマは駐留軍を引き上げてしまった。なのに地元の名士である諸侯どもはバラバラで、お互いにツノ突き合っている。
 国をまとめる優秀な指導者が現れることは全ブリトン人の悲願なのだ。
 そんな時に、ブリテン全土を平らげた優秀な王など現れたらどうなる?
 やれ、ローマ帝国から独立だ領土拡大だと妙な期待をされた挙句、海外まで出て行って戦争せざるを得なくなるだろう。
 やだ、やだやだ、戦争反対。
 ローマなんかと戦って勝ち目などあるか。
 国民にとっても著しい不利益になるぞ。
 そこんとこ、父上も兄上もわかってるんだろうか?

 余の番が回って来る前に、ブリテンに冠たる名士たちがこぞって聖剣を抜こうと試みた。
 王侯やら貴族やら、国中に名の知れた豪華な顔ぶればかり。
 自分ならブリテン王の資格があるだろうと、自信たっぷりのエグゼクティブどもだ。
 しかし、誰一人として聖剣を引き抜けなかった。
 観衆から侮蔑の声が飛ぶ。
 プライドを傷つけられた王侯貴族たちは、余に対する憎しみをますます募らせた。
 お門違いもいいところだ。
 嫉妬とは、かくも人を醜くするのか。
 悔しければ、汝らが聖剣を引き抜けばよいのだ。
 余もそれを望んでいる。
 まったく、厄介なこと極まりない。

 だが、厄介なものがもうひとつあった。

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