怒りのあまり余を殺そうとするか、恥辱に耐えきれずに自ら命を絶ってしまうか、とにかく破滅的な結果に終わるであろうことは目に見えている。
観衆は余を罵って繰り返し笑う。
そのたびに、父上が苛立っているのがわかった。
ん・・・そうだ、怪我をしたことにしよう。
先ほど倒れた時、余は突き指したのだ。
うん、したことに決めた。
これでは剣を握るなんて無理だ。
また日を改めることにして、そのままうやむやにしてしまおう。
痛くて死にそうだという表情を作りながら、父上と兄上に視線を送る。
ねえ、余、怪我しちゃった。
なるべく哀れを誘うような表情で、親子の情に訴える。
ふふ、取り巻く観衆たちも、余の痛そうな表情を見て異変に気づき始めた。
ほら、父上も早く息子の窮状に気付いてください。
・・・・・・。
なんだ、あのジジイは。
一人の老人が父上に近づき、なにやらヒソヒソと耳打ちをしている。
父上、そんなジジイよりアーサーを見て下さい。余、こんなに苦しいの。
息子の視線に気が付いたのか、父上はこちらを振り向く。
そうです、こっちを見て下さい、父上。
すると、父と話していた老人が観衆をかきわけ、猛然と余の元に走って来た。
「怪我なら私が治しましょう、国王陛下」
誰が国王陛下だ。
老人は余の前に来ると跪き、かばっていた余の掌を覗き込んだ。
「んー、どこも怪我などされていないようですがな」
「いや、つ・・・突き指を」
「ほう、突き指?ならば、えい!」
老人は余の指の一本をグイと引っ張った。
「痛っ!」
「治りましたかな?」
治るわけないだろ!
まあ、怪我してないけどさ。
それ、やっちゃいけない民間療法だから。
「ほう、治らない?私の魔法が効きませんでしたかな」
余の心を読むな!
フン・・・魔法使いであることは間違いないようだな。
ってか、今の治療のどこに魔法の要素があるんだ!
「もう一回やりましょうか」
もういい!
それで、お前は誰なんだ!?