小説

『シャボン玉』伊藤円(童謡『シャボン玉』)

 小学二年まで僕は都内に住んでいた。仕事に忙しい両親の代わりに僕の面倒を見るのは祖母だった。祖父は母が小さな頃に亡くなってしまったらしく、一人、小さなアパートで年金暮らしをしていた。母の自転車の補助席に乗せられて、僕は一寸離れの祖母のアパートに連れられた。僕を置くと母は仕事か用事かに出て行って、大抵は夜に迎えに来た。迎えに来られない時はそのまま泊まった。就寝には隣の和室をあてがわれた。六畳もない部屋には仏壇や箪笥、昔やっていたという服飾の仕事に使う大きなミシン台、それから、壁掛けのからくり時計があった。毎時、夜中でも、ぼーん、と大きな音が鳴った。僕はそれが鬱陶しかったが、ふと心細い深夜などは、時計から飛び出す人形の踊りは、何となく頼もしかった。
 そんな家で僕と祖母はよく一緒にテレビゲームをした。母が暇を見つけてはRPGゲームをしていたのと同じく、祖母もゲームが好きだった。とはいえ母と違ってパズルゲームが好きらしく、それを二人で対戦した。祖母と僕は殆ど互角だった。二人共、上手でも下手でもないので、僕一人で遊ぶと先に進めずヤキモキとするのだが、祖母との対戦は毎度勝敗が解らないから白熱して、ゲームは何時間も続いた。祖母は、母や父とは違ってそういった娯楽に小言を言わなかった。流石に夜中は禁止されることもあったが、僕が望めば快く応じてくれた。僕が疲れてやめてしまうまで、永遠と付き合ってくれた。そんなゲームのお供に出される、大きな缶に入った粉末のレモンティーが、格別に美味かった。
 

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