小説

『シャボン玉』伊藤円(童謡『シャボン玉』)

 翌日は火葬だった。出棺前、孫にあたる僕と姉の娘はその場で手紙を書かされ、それを口頭で読まされた。そんな授業参観日みたいな光景に辟易とした。姉の娘が涙ながらに、おばあちゃん、おばあちゃん、と声を震わせ始めた、そんな有内な光景にすらうんざりとしてしまった。しかし、肩を震わせて涙を堪える母の姿には胸が痛くなった。しかし、はい、はい、いいお手紙でしたね、などと業務的に手を叩く葬儀人は張り倒してやりたくなった。こなれた手つきで花などを棺桶に詰めていく姿に、ふと、お葬式というコメディ映画を思い出す程だった。自分が死んだら絶対に葬式はしないと心に決めた。それでも出棺の時は、祖母のことを思って真剣に祈った。離れの火葬場に到着して、気まずいような時間を過ごした。貧相な仕出しの弁当を食べながら、心はくさくさとして止まなかった。いつもの倍煙草を吸った。席を立つたび父もついて来た。父も大変なのだ、と、僕は自分一人腹立たしくなっているのをふと恥じた。けれども、いざ骨になって祖母が出てくると、ここが何々の部分、と解説が始まって、苛立ちが再燃したが、その時の係員の態度は慇懃としていて、やがて気持ちが収まっていった。
 葬儀が済むと僕は直ぐに家を出ることにした。仕事があったし、これ以上居座っても余計に両親を気疲れされるだけだと思った。未だ済んでいない荷物整理の中、手編みのマフラーを見つけて、それを形見に持って帰ることにした。いつ、誰に作ったのかも判然としなかったが、ふと懐かしさが誘われたし、何もないよりかはマシだと思った。大切に扱おうと思った。家を出る時、一寸畳部屋を覗くと、祖母のお骨を収めた白い箱がテーブルにあった。薄暗い部屋にぽつん、と置かれていた。それを僕は可哀そうだと思った。お別れだ、と自然、手を合わせていた。それでも僕は、祖母が亡くなったことに実感を抱けていなかった。慌ただしくすることで悲しみを薄れさせる云々の言葉を想起して、一寸は納得できた気もしたが、それでもよく解らなかった。送迎の車の中でいつもより過剰に僕の心配をする母に、これから、一人、涙を流したりするのだろうか、と考えると、その方がずっと悲しかった。
 

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