最果タヒ(さいはて・たひ)
1986年、神戸市生まれ。
第44回現代詩手帖賞、第13回中原中也賞受賞。
詩集に『グッドモーニング』(思想社)、『空が分裂する』(講談社)がある。近作の詩集『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)が、評判を呼び、多くのファンを獲得する。今、最も注目されている、若手詩人の初小説。
『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』最果タヒ(講談社 2015年2月24日発売)
詩集『死んでしまう系のぼくらに』で世界を震わせた、
今、最も注目される詩人・最果タヒが紡ぐ、初めての長編小説――。
少女たちは、いつだって青春を戦っている。
ー新刊『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』拝読させていただきました。まずは物語の重要な要素であるインターネットについてお伺いさせてください。インターネット上でも精力的な活動をされている最果さんは、別のインタビューで、“わたしの場合、ネットはあまりにも自然な存在というか、ネットで中学の頃からブログを書いていたので、むしろそこに特別な意識はありません。”とお話しになっています。そんな最果さんが、インターネットを巡る物語を書かれたのはどういうきっかけだったのでしょうか。
世の中ではまだ、私が思っているよりもインターネットが自然なものとして扱われていないような気がしています。あまりネットに触れていない人からすると、あくまで別世界、現実にはないもの・いびつなものだと思われているところがありますよね。でも、私にとっては現実世界とごちゃ混ぜで、そこに境界線はありません。だから “インターネットの力を使って変身する魔法少女”という設定が自然なものとして浮かびました。“愛の力”や“海の力”で変身する魔法少女のように、インターネットの力を借りる魔法少女がいてもいいんじゃないかと思ったのが最初です。
ー物語を読むと、素敵な比喩がたくさん目に止まります。例えば、前半にある“洞窟みたいに光も人もいやしないロッカールーム”や、“ソーダのようにさわやかな気分が体を満たしていった。”といった表現。その光景や気分がスッと身体の中に入ってくる気がしました。このような比喩は、どのように生まれるのでしょうか。
書いているときに、ピントが合うようにピッと表現が出てくることがあります。でも、それはあくまで自然と出ることが重要で、意図的にそうした表現を探ることはしないように気をつけています。自然に書けたからこそ、自然に読めるものになるというか。どう表現しようかと考えてしまうと、ただ無駄で冗長なものになってしまうんです。自分で書いている流れで違和感を覚えたら、それは読者にも伝わってしまいます。そしてノーマルな書き方にこだわりすぎないように、とにかく好きに書くようにしています。
ー書くスピードは速いですか?
展開が見えている間は読むスピードとあまり変わらない速さで書きます。そのほうが言葉はきれいに出てくるんです。考えながら書きますけど悩み始めると良くないので、ペースが落ちてきたら少し休憩しますね。
ー今作は、女子高生たちの“友情”の物語でもあります。“個人は、個人としてだけで世界に存在しているわけじゃない。”、“あの日、あのとき、きみがああいう性格であったこと、そして今はこんな性格であること、それをぜんぶ見てきて、きみが私にとって友達の、「きみ」であることを、保証できる存在。私はそうだよ。友達だからね。”という文章がとても印象的でした。あとがきにあるように、“友情”や“親友”と言い換えることでこぼれ落ちてしまうものを掬いとった物語だと感じました。
最果さんが、すでにある言葉について息苦しいと感じ、その言葉が切り捨ててきてしまったものを拾い集めたいと思うのは、どういう瞬間でしょうか。
言わなくてもいいけど言った方が安心するんだろうな、という言葉ってありますよね。例えば、女子だと学生時代に「親友だよね。」と確認し合うようなこと。私はそういう窮屈な言葉の使い方にとても違和感がありました。そのことを想定してこの物語を書いていたわけではないのですが、結果的に、この物語では、引用していただいた部分もそうですけど、彼らだけにとっての“友達”という言葉・概念が新しく生まれ直すということが表現できたのでよかったな、と思います。
ー2月15日にはもう一冊の小説『星が獣になる季節』が筑摩書房から出版されました。女子高校生が主人公の『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』、男子高校生が主人公の『星が獣になる季節』。どちらも十代を描いていますね。
登場人物については、十代のキャラクターを書くことにおもしろみを感じています。自分が何者かわかっていないけど、わかっていないことだけは本人にも自覚できているという、その年代が人間像としてとても魅力的です。感情にも振れ幅があり、極端なところもあるので、最後にどういう結論に達するんだろう、どう気持ちを変えていくのだろう、と読み手としてもすごく興味があります。あと、学校には色々な人がいますよね。大人になると会社やグループはあっても自分の親しい人だけに周りを囲まれがちですが、学校では強制的に色々な人と一緒に過ごします。それでいて十代の不安感は全員に共通するから、完全な断絶が起きないこと。それが興味深いです。その世代のお話というのはこれからも書いていきたいと思っています。
『星か獣になる季節』最果タヒ(筑摩書房 2015年2月16日発売)
ぼくのアイドルは殺人犯!? 推しの地下アイドル・愛野真美が逮捕されたというネットの噂から平凡な高校生・山城の日常はデスペレートに加速しはじめる――。
ーこの二冊は、装丁の色使いが対照的ですが、ご自身の抱くそれぞれの印象を教えて下さい。
それぞれ“魔法少女”と“殺人事件”という設定のため、カラーは全然違いますが、本質は同じなのかなと思っています。『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』は、“魔法少女”という極端な設定ではありますけど、本質は、何者でもない自分に対する不安と、それから特別に見える友達との関係です。『星が獣になる季節』も、話は極端な内容であるものの、主人公はとても平凡な17歳の少年です。彼も自分自身が何者なのかわからない、そうして周囲と自分を比べて途方に暮れていきます。ですので、どちらも本質は普遍的なものだと思います。自分とは何なのか、友達との関係は何なのか、相手に対して自分は誠実なのか、という疑問は、17歳を書くうえでは離れられない問題ですね。
ーなるほど。続いて、詩を書いているときと、小説を書いているときの感覚の違いを教えてください。
詩も小説も読者ありきの作品という考えは変わらないです。私は詩について、自分の気持ちや考えを書くものだとは思っていません。小説は読者を意識して書かれますが、私にとっては詩も同様です。私の詩は、透明なメガネのように、読んだ人が詩を通じて、自分自身の現状や気持ちを見つめるようなそんなあり方をして欲しいと思っています。読んだ人自身の経験や性格で解釈が変わる、その人自身の感情のスイッチを押すきっかけになるものだと考えています。
ただ、作品として成立させるために意識していることは、それぞれ少し違います。詩は、読者にとって、自分自身に投影できるかを感覚で判断してとめどなく書いていきます。小説で、それをすべてやりつづけると、物語が伝わらなくなっていくので、メリハリをつけることに気をつけます。ここの文章はちゃんと伝わるように書くとか、あまり華美な、自己満足的な比喩にならないように考え過ぎずに書くとか、逆に心理描写の部分は好き勝手にやるとか。ただそれは技術的なことであって、根本的なところは同じだと思っています。
ー話題が変わりますが、私たちブックショートでは、昔話や民話、小説などをアレンジした(二次創作した)短編小説を公募します。『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』は、少女漫画の“魔法少女”をモチーフとした主人公が登場しますが、先行作品をモチーフにして新たな物語を書くことに興味はありますか。
パロディは難しいし、恐ろしいことだとも思います。ある種の土台が出来上がっているので、そうした土台の上で好きにやるということに楽しさもあるのだと思います。けれど、どうしても私は自分が思いついた設定にワクワクしたいという気持ちが強いです。
もちろん、どんな物語でも結局はパロディなのだという考え方もあるかと思います。結局は人が書くのであり、そして人の意識はあまり昔から変わっておらず……、過去の作品に触れずに生きていくことは不可能です。だからいつかはそうしたことを楽しんでできたらと思うのですが、でも、やるなら本家を超えたいと思ってやらないとダメですよね。それが私には恐ろしいのですが。
ー小説家を志している方(ブックショートに応募しようと思っている方)にメッセージいただけますでしょうか。
私がメッセージを送ることは恐れ多く思えます。それに、自分で作ろうと思っている時点で私が言えることは何もないです。むしろ、もっとたくさんの人が「作ろう」と思いはじめたらいいのにな、と思っています。小さい頃はみんな絵を描いたり、工作したりするじゃないですか。それが、自然と段々しなくなって、作家になりたいとか、モノを作りたいと考えること自体が痛いことのようにされてしまうのがすごく嫌だなと思っているんです。小さい頃のように誰もが自分で作ることを永遠に続けていれば単純にもっと面白いし、色々な作品も増えて楽しいですよね。
ー作り始めて悩んでいる人に対して何かアドバイスがあればお願いします。
締め切りを守る、それだけだと思います。自分の首を絞めるアドバイスでもありますが(笑)。ものづくりって結局、完成した作品の数で決まると思うんです。特に詩はそうなんですけど、どこで終わらすかによってその人の作風が決まります。人によってはもうここまでしかできない、という形で終わらせる人もいたり、いやまだ俺はできる、とずっと直し続ける人もいると思うんですけど、完成させるというのは一番重要な仕事だと思うので、自分で締め切りを作ったり、賞の締め切りを守ったりしていくことはすごく重要なのではないかと、自分に対しても言いたいです。
ーブックショートは3月末で締め切りなので、ぜひ応募者のみなさんも意識して欲しいですね。
これは自分を怠けさせないための暗示みたいなものですが、破った締め切りの数だけ、自分の成長は遅れていくんだと思っています。作品が良くなるためには、やっぱり読んでもらうことが必要で、そのためにはまず完成させなきゃいけないんですよね。
ー最後に今後の予定を教えてください。
『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』を載せていただいていた別冊少年マガジン(講談社)さんで今年の夏頃、連載が始まります。
ー内容について差し支えない範囲で教えていただけますか。
十代の男の子と女の子の話です。男の子は凶悪事件のマニアで、いつか自分もそういう事件を起こしたいと願っているという、ちょっと拗れた子。女の子は、幼い頃に人を殺してしまったという過去を持ちます。そのことを知った男の子が、女の子の過去に憧れを抱き…という長編です。
ーそちらも楽しみにしています!本日はありがとうございました。
*賞金100万円+ショートフィルム化「第5回ブックショートアワード」ご応募受付中*
*インタビューリスト*
馳星周さん(2019.1.31)
本谷有希子さん(2018.9.27)
上野歩さん(2018.5.31)
住野よるさん(2018.3.9)
小山田浩子さん(2018.3.2)
磯﨑憲一郎さん(2017.11.15)
藤野可織さん(2017.11.14)
はあちゅうさん(2017.9.22)
鴻上尚史さん(2017.8.31)
古川真人さん(2017.8.23)
小林エリカさん(2017.6.29)
海猫沢めろんさん(2017.6.26)
折原みとさん(2017.4.14)
大前粟生さん(2017.3.25)
川上弘美さん(2017.3.15)
松浦寿輝さん(2017.3.3)
恩田陸さん(2017.2.27)
小川洋子さん(2017.1.21)
犬童一心さん(2016.12.19)
米澤穂信さん(2016.11.28)
芳川泰久さん(2016.11.8)
トンミ・キンヌネンさん(2016.10.21)
綿矢りささん(2016.10.6)
吉田修一さん(2016.9.29)
辻原登さん(2016.9.20)
崔実さん(2016.8.9)
松波太郎さん(2016.8.2)
山田詠美さん(2016.6.21)
中村文則さん(2016.6.14)
鹿島田真希さん(2016.6.7)
木下古栗さん(2016.5.16)
島本理生さん(2016.4.20)
平野啓一郎さん(2016.4.19)
滝口悠生さん(2016.3.18)
西加奈子さん(2016.2.10)
白石一文さん(2016.1.18)
重松清さん(2015.12.28)
青木淳悟さん(2015.12.21)
長嶋有さん(2015.12.4)
星野智幸さん(2015.10.28)
朝井リョウさん(2015.10.26)
堀江敏幸さん(2015.10.7)
穂村弘さん(2015.10.2)
青山七恵さん(2015.9.8)
円城塔さん(2015.9.3)
町田康さん(2015.8.24)
いしいしんじさん(2015.8.5)
三浦しをんさん(2015.8.4)
上田岳弘さん(2015.7.22)
角野栄子さん(2015.7.13)
片岡義男さん(2015.6.29)
辻村深月さん(2015.6.17)
小野正嗣さん(2015.6.8)
前田司郎さん(2015.5.27)
山崎ナオコーラさん(2015.5.18)
奥泉光さん(2015.4.22)
古川日出男さん(2015.4.20)
高橋源一郎さん(2015.4.10)
東直子さん(2015.4.7)
いしわたり淳治さん(2015.3.23)
森見登美彦さん(2015.3.14)
西川美和さん(2015.3.4)
最果タヒさん(2015.2.25)
岸本佐知子さん(2015.2.6)
森博嗣さん(2015.1.24)
柴崎友香さん(2015.1.8)
阿刀田高さん(2014.12.25)
池澤夏樹さん(2014.12.6)
いとうせいこうさん(2014.11.27)
島田雅彦さん(2014.11.22)
有川浩さん(2014.11.5)
川村元気さん(2014.10.29)
梨木香歩さん(2014.10.23)
吉田篤弘さん(2014.10.1)
冲方丁さん(2014.9.22)
今日マチ子さん(2014.9.7)
中島京子さん(2014.8.26)
湊かなえさん(2014.7.18)