○選んだ作品:
『注射を打つなら恋のように』入江巽(『細雪』谷崎潤一郎)
○選んだ理由:
二次創作は、原作のキャラクタを自由に動かす「スピンオフ」、もしくはテーマを拝借する「パスティーシュ」に大きく二分される。といった勝手な固定観念が私にはあったのだが、本作では船場言葉で描かれた『細雪』の技法が取り入れられており、このような形のオマージュは新鮮だった。その土地の言葉でしか表現できないものは確かに存在しており、それは技術が発達し地方/中央の情報格差が限りなく平坦となった現在だからこそ丁重に扱われるべきものなのかもしれない。原作で描かれた上流階級と本作のストーリーは天と地の差だが、覚醒剤はその使用感からしばしば“雪ネタ”とも称される。原作に通ずる儚い滅びの空気を内包しているのも面白い。