気がかりな夢から目を覚ますと、少女は醜い毒虫になっていた。
不思議だったのは、さほど驚きもしなかったことだった。
「別に、グレゴールザムザでもあるまいに、別段、困りはしない……、気が、する。」
むしろ、夕べの偏頭痛が、毒虫になってさえも残っているという事に、多少の苛立ちを感じた。
そもそも家に住んでいたところで、家族と顔を会わせる事など滅多になく、部屋の前に置かれた食事だけが、唯一の家族とのつながりのようなものだった。
手なのか足なのか区別がつかないものをカサカサともてあそんでいるうちに、少女の毒虫生活一日目が終わっていた。
朝でも昼でも夜でも薄暗い、穴蔵のような部屋。時間が止まった部屋。いつまでも今日の続き、の部屋。
毒虫の体でカサカサと這い回った。
手足からは粘着質の液体が出ているようで、壁をのぼり、天井にぶら下がる事ができた。少女は、ぶらーんとぶら下がりながら、自分と似たような境遇に陥った男のことをぼんやり考えた。
グレゴールザムザは、一家の大黒柱だった。
毒虫になって困る事が多く、何より妹を愛していた。
だから、彼は毒虫になったことを悲しんだし、妹とのつながりが断ち切られたことに絶望し、修復を望み、妄想を抱き、そして、死んでいった。
でも、あたしは?
あたしの生活は?
あたしの愛するものは?
あたしが望むものは?
頭の中を様々な疑問がグルグルと回った。