『ピンクの100円ライター』
山名美穂
(『マッチ売りの少女』)
大晦日。仕事帰りに同級生のコバヤシと再会した『クリタ』。社会人になった彼と公園で話をすることに。喫煙者の彼が使うのは、学生時代と同じピンク色の100円ライター。ライターがタバコに火をつけるたび、彼のブランド品や懐かしい思い出が浮かびあがる。でも最後にその灯りがふたりに見せたものは…。
『ビルの木』
早乙女純章
(『注文の多い料理店』)
『ビルの木』がたくさん立っている森は『トカイの森』と呼ばれています。このトカイの森に、鈍く輝くスーツを着た若者二人がやってきました。彼らは『ダイガク』という町からきて、ビルの木を見上げ力強く両腕を振りました。
『雪まろげ』
貴島智子
雨月物語『菊花の約』
真っ白い小さな芯が転がって柔らかな雪を次々と纏い、大きな固まりになる。それが雪まろげ。二人の侍はまるでじゃれあう仔犬のように白銀の世界を駆け回った。その足跡は、空が明るくなる頃には縦横無尽な広がりを見せていた。
『蜘蛛の糸』
anurito
(『蜘蛛の糸』)
これは、別の次元における「蜘蛛の糸」の物語である。我々の知っている「蜘蛛の糸」とは違い、こちらの世界のカンダタは無事に極楽にたどり着いていた。しかし、はたして、それでカンダタは本当に幸せになれたのであろうか。
『裸の王様』
anurito
(『裸の王様』他)
現在の地球の、ある先進国家での物語。その国の政治の中心である大統領と相談役・アール氏の前に突如、銀河連邦の宇宙人と名乗る若者が現れた。その宇宙人は、地球人の知性レベルを調べるため、知能が高い人間にしか見えない服を大統領に着るように強要してくるのだが……。
『狼はいない』
光浦こう
(『狼少年』)
ある日僕は流れ流れて、昔、狼少年が住んでいたと伝えられる村へと辿り着く。
そこは嘘をついたら誰も信じてくれなくなるぞ。という狼少年の教訓を胸に、村人全員が嘘をつかない村であった。しかしそこに忍び寄る狼の影が…‥。僕は狼退治に向かう事にした……。
『仇討ち太郎』
星谷菖蒲
(『桃太郎』)
「其の方、島町鍛冶屋の鬼塚家当主、鬼塚太郎に相違ないか」一人の男が、殺人の罪で詮議にかけられようとしていた。殺されたのは、桃太郎の子孫と伝わる一家。罪を否定しない男は、「なぜ殺したのか」と問われて答える。「桃太郎の話を知っているか」、と。そして、その夜のことを語り始めた……。
『Dカンパニー』
サクラギコウ
(太宰治『グッド・バイ』)
逆玉の輿のチャンスをつかめそうな結城は、同時に付き合っていた他の4人と速やかに別れなければならないと考えた。彼は「Dカンパニー」に相談する。いわゆる「別れさせ屋」だ。結城は会社一押しのアヤという女とコンビを組むことになり、女性たちの元を順々に訪ねていくのだが……
『若返りの水』
井上岳人
(日本昔話『若返りの水』)
お爺さんとお婆さんが仲良く暮らしていた。ある日お爺さんが若返りの水を飲んで若返ると、お婆さんも飲みに出かけた。が、赤ん坊になってしまい、お爺さんの若者が懸命に育てた。ところが、年頃に娘になったお婆さんは、他の男に嫁いでしまった。
『オオカミの白い手』
こゆうた
(『オオカミと七匹の子ヤギ』)
美和はある日、近所の洋館に咲き乱れる白いバラに惹かれ、中を覗き込む。すると、家主が現れた。ピエロの化け物みたいな化粧をしたおばあさん。断りきれず家に上がった翌日、美和の家を訪ねてきたのは…
『日向の蛙』
枕千草
(『カエルの王さま』)
八年ぶりに見た弟の和樹は、きれいなお姉さんになっていた。「アキちゃんの弟くんか。俺会ったことないよね。」そう語る郁人と私が付き合い始めてからは五年が経とうとしている。初めて彼と出会った瞬間、私は既に恋に落ちていた。
『笠地蔵と飯盛女』
宮城忠司
(『笠地蔵』)
信州追分宿で飯盛女として春をひさいでいたおせんは、馴染客から知恵を受けて飯山まで逃亡したが行き倒れになった。お爺さんが町からの帰りに、寒かろうと雪まみれの地蔵さんに笠をかぶせた。翌朝、お礼に地蔵さんが運んで来たのは、息絶えだえのおせんと米三俵だった。お爺さんとお婆さんは…
『双子の山羊』
宮城忠司
(北欧神話『タングスニとタングスニョースト』)
亮三は小学三年の時に子山羊の世話係になった。成長した雌山羊は双子のオス山羊を産む。父に殺すよう命じられた亮三はしかし、子山羊を山に捨て、隠れて乳を飲ませた。10年後、交通事故で視力を失った亮三は、山で重なりあった動物の骨が見つかったという話を聞き、あの山羊に違いないと確信する。
『神隠し沼』
宮城忠司
(白山麓民話『孝行娘』)
大干ばつに見舞われた白山麓一帯。伝造は坊さんと、雨と引き換えに嫁をやる約束をし、田畑は生き返る。末娘が嫁ぐことになり大沼まで行った。坊さんが大蛇となって現れた。娘は米ぬかと針千本で退治した。逃げる途中で長者の世話になり養女となった。その後一向宗門徒を勝家軍から守った。
『白い銀河』
洗い熊Q
(『銀河鉄道の夜』)
僕は気がつけば汽車の中にいた。不思議な同乗者のお願いを自分が好きな水墨画で叶えてゆく。それが彼の為なのか、自分の為だったのかわからなくなっていった。
『蛤茶寮』
水里南平
(『蛤女房』)
釣針には、先程助けた蛤がぶら下がっていた。私は再び蛤を海に逃がし、釣りを続ける。また『蛤』が…逃がす。釣り場を変えても『蛤』が…逃がす。何度でも『蛤』が…『蛤女房』かよと思いつつ、釣りを諦め海を後にした。
『名付け』
須田仙一
(『寿限無』)
最近子供が出来たばかりの老夫婦が隣人に、あるお店を紹介された。それは子供に名前を付けてくれるというお店だった。そこの店員さんの説明によると、どんな字にも良い面、悪い面があり、それを総合的に考えることが大切らしい。老夫婦は迷いながらも、ある名前を付けることにした。
『窓辺の夫婦』
草間小鳥子
(『錦絵から出てきた女の人』)
都会で一人暮らしをはじめたぼくの部屋の窓に、夜になるとうつる女の影。姿は見えないのに、毎晩、毎晩、影だけが現れる。恋人には不気味がられ、いまいましく思っていたものの、影だけの彼女にぼくはすこしずつ心惹かれてゆく。そんなある日の夜ふけ過ぎ、誰かが部屋のドアを叩いた。
『夢みるピアノ』
草間小鳥子
(『ピアノ』)
時を超えて届いた旋律に呼ばれ、わたしは鍵盤に指をおろす。音楽会の花形であるピアノ奏者に選ばれたことで、同級生らと気まずくなってしまった主人公。放課後、ピアノの音色に誘われ屋敷の門をくぐると、見知らぬ少女、さくらと出会う。 満ち足りた時間、軽やかな演奏。これは現実? それとも……
『時皿』
にぽっくめいきんぐ
(古典落語『時そば』『猫の皿』)
落語帰りの男が、タイムリーに現れた駅前そば屋に雄々しく挑みかかる!!
『蚊』
みなみまこと
(『変身』フランツ・カフカ / 『カエルの王子』)
男が目を覚ますと蚊に変身していた。このまま、部屋の中で死ぬのはごめんだ。人間に戻るため、生き抜くために蚊は飛び立った蚊。吸血の至福に酔ったり、殺虫剤や天敵に襲われる恐怖を味わったり。憧れの女子大生有里香さんのアパート部屋へ侵入した蚊は、彼女を悩ませていたストーカーに戦いを挑む。
『小豆橋』
原哲結
(『妖怪 小豆洗い』)
ショキショキ ショキショキ、ショキショキ ショキショキ。右間に暮らす人々と左間の住人が対立する地域。心優しき妖怪 小豆洗いが右間の娘と左間の男性の恋愛成就のために一肌脱ぐ。二人の願いが叶った時…
『ぼくと、4つのせかい』
田中和次朗
(ネイティブアメリカン民話『ホピ族の予言』)
おばあちゃんから聞いた、とても大切な物語がある。たったひとつのその物語はすべて、ぼくの記憶に記録されている。不思議で、可笑しい。でもほんとうだと思わせる、でもほんとうかもしれない物語。
『豆の行方』
多田正太郎
(『追儺』森鴎外、『ジャックと豆の木』)
「食い物! 食い物! 食い物!」なんでもいい、食えるものなら。それ、求め。全てのものが、挙動不審。目線を、右往左往。ギラギラ、鋭く漂わせ。叫び続け、ぞろぞろと。群れと化して、歩いている。正確にいうなら、イヌかなにかの動物のように、四足でないだけだ。
『ぼそぼそ』
多田正太郎
(芥川龍之介『カチカチ山』グリム兄弟『白雪姫』)
ボソボソと話し声。男なのか女なのかもわからない。いやいやそれどころか何処なのかもわからないのだ。全てが混沌としていた。そんな世界。いや、云いようのない幻想めいた渦中に 漂う世界。二人ではなく、独白かも。とにかく、混沌として分からない。
『孤児と聖母』
明根新一
(『母子像』)
中学生の「僕」は、父が失踪して以来、女神のように美しい母と二人きりで暮らしている。「僕」は父がいなくなったことに対して悲しさよりもむしろ、母を独り占めすることができるという幸せを感じていた。そんな日々が続いていたころ母が、自身が勤める「夜の店」の常連客を連れてきて……
『おばあちゃんのおせち』
石川理麻
(『鶴の恩返し』)
「そういえば『もし救急車で運ばれるようなことあったら、勝負下着に着替える』って言っていたよね。救急隊員が男前かもしれないから。」祖母は口ベタで、だったけれど、誰からも好かれて頼られていた。豪快な人だった。
『リア王異聞』
黒田女体盛
(『リア王』)
「風よ、吹け! 雨よ、降りかかれ!」自分への愛と忠誠を信じ、領土を分け与えた二人の娘の冷淡な仕打ちによって城から追い出されたリア王は、絶望のあまり正気を失い、荒野を彷徨いながら荒れ狂う嵐の空へ向かって声を限りに叫び続けていた。
『ミサキ・マサキ』
和織
(『ウィリアム・ウィルスン』『不思議の国のアリス』)
アリスが不思議の国の話をひけらかしたって、現実の世界では誰もそれを信じない。だから現実では、それは「夢だった」というのが本当なのだ。だから僕も、その本当を信じる。いくらあの、出てきたいときだけ出てきて、言いたいことだけ言って消える、身勝手なチシャ猫のことが脳裏に焼き付いていても、夢であれば、それは現実(ここ)にはいない筈だからだ。
『ユートピアンの結末』
和織
(『浦島太郎』)
「ここに、あなたの一番欲しいものが入ってる」ルカはそう言って、タケルにその黒い箱を渡した。LOVELESSと呼ばれ、島に移り住んだ彼ら。それは、永遠を生きる者による、有限においての永遠の定義を問う実験だった。