『抜け小鈴』
清水その字
(古典落語『抜け雀』)
毎夜、美術室の絵から少女が抜け出し、校舎の中を歩いては絵に戻る。『俺』の描いた絵も同じように抜け出して、また絵の中に戻っていく。ある日、描いた雀を少女の絵と対面させてみると、彼女からある頼みごとをされ……。
『夜鷹の照星』
清水その字
(『よだかの星』宮沢賢治)
一九四五年。大陸の荒野で、狙撃手がたった一人で戦っていた。敵を可能な限り足止めせよとの命令を受け、小屋に立てこもり、相棒の銃だけを頼みに次々と敵を撃っていく。だがふいに、弾に当たって苦しむ敵兵の姿を見て、鳥に捕まったカブトムシのことを思い出してしまう。
『三万年目』
清水その字
(古典落語『百年目』)
野良猫のハナグロは二十年生きて、妖怪猫又になった。修行を積んで人間に化けることもできるようになったが、名前の由来である顔の模様が消せない。そんな中、外国から来た猫妖怪・マカが彼に声をかける。どうも普通の猫又ではなさそうな彼女に振り回され、一緒に町へ出かけることになったハナグロだが……
『鉄砲撃ちと冬山』
清水その字
(宮沢賢治『雪渡り』)
雪の降り積もった冬の山に、クマの足跡が見つかった。そんな中で子供が山へ入ったきり、帰ってこないという報せ。猟師たちに招集がかかり、捜索が始まった。町の猟師の一員である「俺」も、『おキツネ山』と呼ばれるその山へ向かった。万一に備え、銃を携えて。
『オリザに灯る火』
清水その字
(宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』)
グスコーブドリが大勢の人々を救ってから、二十年。今や彼を知らぬ者はおらず、イーハトーブの町中で記念式典の準備が始まっていた。新聞記者の『私』と『先輩』も特集記事作成のため、生前のブドリを知る人々の元へ取材に向かった。
『終戦花見』
清水その字
(古典落語『長屋の花見』)
海から遠く離れた、長野県の野辺山高原。太平洋戦争末期、空襲から逃れてこの地で訓練をする海軍の部隊があった。終戦でやることをなくし、若き飛行兵は景気付けに、八月だというのに花見へ行こうと言い出す。気で気を養え、と。
『空の銛』
清水その字
(ハーマン・メルヴィル『白鯨』)
大学の図書室で読書する僕の前に現れたアキエさん。「私、これに乗っているの」……戦闘機の写真を指差して、彼女は言った。いつも『白鯨』を読みながら居眠りをしては、夢の中で大空を飛んでいるという。彼女に興味を持ち始めたある日、「僕」は気がつくと操縦席に座っていて……
『桃太郎の真実』
広都悠里
(『桃太郎』)
鬼退治へ向かう桃太郎と犬、猿、雉。鬼が島で暮らす鬼。家で待つおじいさん、おばあさん。それぞれの思惑が複雑に交錯し、疑心暗鬼が広がる。誰が本当のことを言っているのか、嘘をついているのは誰なのか。
『人魚姫の代償』
広都悠里
(『人魚姫』)
記憶を失ったオレは人の心を文字で読めるようになっていた。別れたばかりの彼女も望み通りの言葉を選び、してほしいことをしてあげられるようになったオレとよりを戻す気になった。どうやらこの能力は取引で手に入れたものらしい。そして元に戻すためにはさらなる取引が必要になるらしい。
『おとぎサポート』
広都悠里
(『一寸法師』)
学校一背の低い男、堀川翼。進路希望調査票を前に悩む高校二年生。そんなオレの前にシルベミチユキという奇妙な男が現れる。昔から語り継がれているおとぎ話は「おとぎサポート」のおかげで成功したものだというのだ。そして今、時代の新たなおとぎ話のニューヒーローを求めているのだという。
『生贄は不要』
広都悠里
(『みにくいあひるの子』)
ああ、生贄を見つけた。その時、遥香は、頭のてっぺんから爪先までつきぬけるような「やった!」という気持ちで心からの笑顔になる。今度の標的は、学校の中庭で出会った三年生の男子。徹底的にダメージを与えてやる。
『ツバメとおやゆび姫』
五十嵐涼
(『おやゆび姫』)
僕の唯一の楽しみは、学校の後洋介さんというお兄さんにギターを教わる事だった。ある日洋介さんの元に向かう途中、自転車に轢かれてしまう。倒れていた僕を助けてくれたのは、クラスの和泉だ。小柄で可愛い彼女は不遇な家庭環境に置かれていた。事故をキッカケに彼女と友達になるのだが……。
『赤いブラジャー』
五十嵐涼
(『赤い靴』)
家族は皆外出し、一人自宅に残された中年男性。ついに長年の願望を叶えるチャンス到来!とばかりに、上半身裸で鏡の前に立つ。その手には、赤いブラジャー。「いや、オレは…変態じゃない、オレは変態じゃない」
『ガラス製品なので大変割れ易くなっております』
五十嵐涼
(『シンデレラ』)
“魔女の部屋”で買ったガラスの靴を履き、割れた破片で足が血まみれになった女子高生。小柄な彼女の体重は80キロオーバーだ。金を返せと怒鳴り込むも、“魔女”の方が何枚も上手だった。
『白雪姫 in バードランド』
五十嵐涼
(『白雪姫』)
美白で多くの男を魅了した詠美も年をとった。度重なる婚活に敗れ、焼き鳥屋でクダを巻く。ある夜、飲み過ぎてついに倒れてしまう。心配して彼女の周りを囲む男性たち。目覚めた彼女を待っていた男は…
『多元宇宙収束現象太郎』
多憂唯果
(『桃太郎』『一寸法師』『浦島太郎』『金太郎』)
多元宇宙の収束により、各々の世界から集まった桃太郎・一寸法師・金太郎・浦島太郎。彼らは様々な宇宙を漂流し、混乱しながらも、自分たちが「物語の主人公」であることに漠然と気づき始める。そして互いを鬼であると認識した桃太郎と一寸法師は殺し合いをはじめて……。
『エンドウ豆の上に寝たお姫様』
長月竜胆
(『エンドウ豆の上に寝たお姫様』)
理想の高い王子は長い間“真のお姫様”と呼べる存在を探し求めていた。そんな王子のもとに王女を名乗る三姉妹が現れる。嵐の間、王子の城に泊まることになった三姉妹。王子は三姉妹が使用するベッドにエンドウ豆を一粒ずつ仕込み、“真のお姫様”であるかどうかを見極めようとする。
『不自由な幸福』
長月竜胆
(『アザミを食べるロバ』)
人間の食料を積荷として運んでいたロバ。途中、好物のアザミが咲いているのを見つけ、夢中になって食べ始めた。そんな様子を見た鳥は、「食料を背負いながら、道端の草花を食べるなんて滑稽だ」と馬鹿にする。ロバは人間との共存だと反論するが、鳥は全く相手にしない。無礼な鳥に対しロバは……。
『ある夜の出来事』
長月竜胆
(『じゃがいもどろぼう』)
二人の男が墓地で見つけた俵にはジャガイモが一杯に詰まっていた。それを二人で分けることにした男たちは、暗い墓地の中でジャガイモの数を数え始める。墓地から聞こえるその声に、通行人は妖怪が死体を数えていると勘違い。その上、二人の会話は次々と勘違いを生み、ちょっとした騒動に発展する。
『ネズミの相撲』
長月竜胆
(『ネズミの相撲』)
ある日、お爺さんはネズミが集まって相撲をしているのを見掛けた。自分の家のネズミが弱いのを見たお爺さんは、お婆さんと共に団子を作り、ネズミに与える。すると、他のネズミたちも集まってきて、団子の礼に小判を置いていくようになった。それを聞いた長者は真似をして金儲けを企む。
『めぐりめぐって』
長月竜胆
(『まったくほんとう!』)
「あら、羽が抜けた分、痩せて綺麗になれたわ」ニワトリのそんな些細な冗談から始まった噂話。思い込みや勘違いによって少しずつ変化する話の内容は、いつしかニワトリを置き去りにして社会現象にまで発展していく。
『鳥の噂話』
長月竜胆
(『聞き耳頭巾』)
鳥の言葉を理解できるようになる不思議な頭巾を手に入れたお爺さん。鳥たちの噂話を頼りに、長者の娘を救うことに成功する。ところが、一つ問題を解決すると、結果的にそれが別の問題を誘発し、事態はややこしくこじれていく。そんな様子もまた、鳥たちの噂話の種になるのだった。
『赤と、青と、黄色の』
佐久間クマ
(『檸檬』)
夏の終わりに突然、クラスから仲間はずれにされた三木。美少女で高嶺の花の存在のユキちゃん。ただのクラスメイトだった2人が、放課後にこっそりとある計画を仕掛けた。それはたった半日の出来事。
『狸寝入りのいばら姫』
星見柳太
(『眠れる森の美女』)
目の前で意中の女子、茨城姫子が眠っている。彼女が気分が悪いと言い出したのが始まりで、僕と、女友達 車田さんの二人で保健室まで連れてきた。車田さんは「寝込み、襲うなよ?」という言葉を残し教室に戻る。部屋には二人。
『BUNBUKU-CHAGAMA』
星見柳太
(『ぶんぶく茶釜』)
満月光る宵の闇。昭和の香りをそのまま残した崩落寸前の木造アパートの一室に、一人の男と一匹の狸が相対して座っている。狸はかの有名な、分福茶釜の末裔を名乗る。かつて助けてくれた幸平に恩返しに来たという。
『T大学文学部のメロスと申します。』
伊藤佑介
(『走れメロス』)
「……メロス様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。 敬具」メロスは大学4年生、厳しい就活戦線に何も知らずに飛び込んでしまった。企業から送られてきた不採用通知のメールから採用活動の理不尽さに怒りを覚えたメロスは、その不満を面接官にぶつけてみるのだが……。
『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』
角田陽一郎
(『夜明け前』島崎藤村)
夜明け前が、闇は一番深い。そして今の闇は深く暗い漆黒の闇だ。だとしたら、だからこそ、それこそ夜明けは多分まもなくだ。テレビ局に就職した田中洋平は、バラエティ番組の現場でADとして社会人生活をスタートした。
『芋虫から生まれた少女』
志田健治
(『桃太郎』)
バーテンダーの侑は、九歳の琉音やその父親、友人たちとキャンプに。テントで皆が寝静まった夜、寝袋に包まれた琉音に面白い話をとせがまれた侑は困り果て、即席の昔話を語りだす。「川から巨大な芋虫が流れてきました。」
『金太郎の恋』
露風真
(『今昔物語』)
源頼光の家来の四天王たちの物語である。頼光には美しい姫がいた。その姫を四天王たちは恋していた。中でも金時は純な恋心を持っていた。彼はある日、姫が賀茂の祭りの行列を見に行くことを聞いた。そこで貞光、季武と語らって牛車を女車に仕立てて乗り込み、祭り見物に出かけて行く……。
『主人公』
あおきゆか
(横光利一『機械』)
呑気な主婦の書く小説の中でいつも脇役に甘んじてきた私は、はじめて主人公になった。だが、これまでずっと主人公をやってきた軽部との隣人トラブルに加え、遅れて現れた屋敷の存在感に悩まされるようになる。三人は小説の主要人物でありながら水面下で憎しみ合い、やがて人工物のような森に迷い込む。