小説

『めぐりめぐって』長月竜胆(『まったくほんとう!』)

ツギクルバナー

 鳥は広い空を自由に飛び回ることができるので、種族を越えて広い交流があった。様々なものを見聞きする機会も多く、情報通で噂好きな者も多い。よって鳥の存在は、動物の世界においてある種のネットワークのような役割を持っていた。しかし、それはあくまで優れた飛行能力あってのことである。例えば、空を飛ぶことの苦手なニワトリは全くの例外。ニワトリたちは一箇所に集まって小ぢんまりとした生活を送っていた。一般的な鳥と比べれば、閉鎖的な環境で、独自のスタイルを持って生活しているのである。
 そんなニワトリたちのとある集落で、一羽のニワトリがのんびりと羽の手入れをしていた。一通り作業を終えたニワトリが、ふと自分の周囲を見ると、抜け落ちた羽が数枚散らばっている。
「あら、羽が抜けた分、痩せて綺麗になれたわ」
 ニワトリは冗談で呟いた。独り言のつもりだったのだが、それをたまたま一羽のスズメが木の上で聞いていた。ニワトリの冗談を真に受けたスズメは、他の鳥たちにこのことを話して回る。
「ニワトリは綺麗になるために羽を抜くらしい」
 それを聞いた鳥は、また別の鳥に話を広める。
「ニワトリは美しさを競い合って羽を抜くらしい」
 決して嘘をついたり、大げさに話しているわけではないのだが、勘違いや思い込みのために少しずつ話は変わっていった。そして、それはどんどんエスカレートしていく。
「ニワトリが争って羽の毟り合いをしたらしい」
「ニワトリの世界における戦いは、互いの羽を奪い合うというものらしい」
 次々と変化していく話は、もはや原型もないほどになっていた。ところが、この話を聞いた鳥たちは妙に納得する。
「確かに合理的かもしれないな。鳥にとって羽は大切なものだ」
「羽を奪われた方は恥をかくわけか」
「争いになった時、命を奪い合うよりも、羽を奪い合う方がまだ平和的だ」
 それからというもの、鳥たちの間では羽を奪い合うという決闘のスタイルが流行した。何かというと決闘によって話を収めようとするので、羽のボロボロな鳥がちらほら見られるようになった。

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