『母と弟』
岐波和
(『北風と太陽』)
中学2年生の弟は部活に明け暮れていたが、その成績は受験の推薦を取れるほどのものではなかった。 母子家庭で父親がいない中、弟の将来を心配する母は、勉強の成績を上げさせるべく、弟に圧力をかけていた。だが、その圧力が、結果的に彼の勉強のやる気を削ぎ落としていた。
『たなおろし』
太田純平
(『機械』)
深夜のドラッグストアで、小見山良平は棚卸しを行っていた。棚卸し代行業にとって冬場は繁忙期。この中型店舗に派遣されたのは小見山とベテランの松本、そしてクイーンの異名を持つ新井美貴子だけである。松本はクイーンに狂恋し、小見山を敵視している。ところが、クイーンは小見山を呼び出して――
『デコトラと人魚』
双六
(『人魚姫』)
北海道の家出少年は、ヒッチハイクで東京に行こうと試みるが、デコトラを止めてしまい、無理やり乗車させられる。ドライバーは謎めいた女性。初め、怯えていた少年だったが、気さくな女性の態度に次第に心を許していく。しかし、女性にはとある秘密があった。
『暖かい雪』
山本ちく
(『狐の恩返し』)
大晦日の夜、亡くなった妻と娘に化けた二匹の狐がやってきた。二匹の狐とテーブルを囲みながら男は、妻と娘と過ごした頃のことを思い出した。それは確かに幸福な記憶だった。一夜限りの家族の団らんは、希望を失っていた男の胸に暖かさを残した。
『あんこく老人ホーム』
桜井かな
(『花咲かじいさん・舌きり雀・こぶとりじいさん』)
主人公の「あたし」は「あんこく老人ホーム」という施設で働いている。様々な違和感から、老人ホームは昔話の悪人を収容する施設であると知った「あたし」は老人たちを改心させるため絵本のワークショップの企画を立ち上げる。しかし忘れっぽいお年寄りは企画をオリジナルの内容に変化させていく。
『カンペ』
永佑輔
(『代書屋』)
ソメシタ塾の講師が塾生を連れ回して逮捕された。塾長の京子は説明会を開くハメになったが人前が苦手。てなわけで、祖業者かつ祖父の染下に説明責任を押し付ける。京子の役割は染下にカンペを見せるだけ。だが染下はカンペをうまく読めない。それは染下が講師を助ける作戦だった。
『メイキング 桃太郎戦記』
小木田十
(『桃太郎』)
桃太郎がゾンビ化した鬼たちと戦うという内容の映画撮影が山の集落一帯で行われる予定だったが、ロケバスの事故で俳優たちが来られなくなり、善三ら村の年寄りたちは急遽エキストラ出演を頼まれる。妻の恵美は善三が転んだりしないよう、撮影中ずっと後ろからついて来て、若い頃の思い出話に。
『この反論が終わると君は去ってしまうから』
淡ひそか
(『天女の羽衣』『雪女』)
秘密にする、と約束した雪女のことを、自分の妻にうっかりしゃべってしまった男。妻とどうしても別れたくない男が、その約束は無効ではないか、という事を延々としゃべりつづけるだけの物語。