『父の庭』
おおのあきこ
父が骨折で入院しても、美咲は同情する気にもなれなかった。なにしろ父は、病室でも昔と変わらず自分の都合ばかりを優先させようとするのだから。やがて美咲のいら立ちは最高潮に。しかし実家の庭で隣人と久しぶりに再会した美咲は、父の意外な一面を聞かされ、新たな思いを抱きはじめるのだった。
『光の町へ』
香澄ユミ
人というものは非常に簡単に、そしてあっさりと死ぬようだ。祖父が死んだ時、僕は自分の目から涙が出ない事に驚いた。祖父の死から一年が経った頃、僕はたまたま訪れたある町で、祖父の古い友人だと名乗る一人の老人に出会う。そこで幼い頃に忘れていた一冊の本と出会う。
『波、歌う』
寧花
国内だというのに移動に17時間。久しぶりにその島を訪れた大地は、祖父母の暮らしぶりを目の当たりにして胸を痛めた。老老介護と孤独な現実。祖母を助けたい思いは膨らむが、当の本人がそれを拒む理由――。『ばあちゃんの匂い』は、海のように深い愛を教えてくれる。
『ひいばあちゃんの蜜柑』
本山みなみ
認知症で独り暮らしができなくなった、ひいばあちゃん。ひ孫である小学2年生の千果は、ひいばあちゃんとの新しい暮らしが、嬉しかった。両親はまともに聞いてくれない千果の話も、ひいばあちゃんは何度も聞いてくれるからだ。
新しい生活に慣れないひいばあちゃんと、ひ孫の、心温まるストーリー。
『息子の彼女』
スマイル・エンジェル
45歳のパート主婦の主人公は、夫と高校2年の長男と中学3年生の長女の為に、日々節約をする良妻賢母。長男に学校一番の美少女の彼女ができて、家に遊びに来る事になる。長男の彼女は、愛情に溢れる家族団らんにふれて喜んで帰っていく。主人公も、息子の優しい振る舞いに家族である事の幸せを感じる。
『この日、僕は『家族』をした。』
雨宿ひろゆき
大黒柱として家族を守り続けてきた僕だったが、冷え込んだ家庭に危機感を覚えてしまう。だがある洗口液との出会いで、落ち込んだ父には笑顔が戻り、娘や妻との繋がりも深まっていく。やがて家庭に温かい光がもたらされた。会話と思いやりが家庭に愛をもたらす、親子の短編作品。
『テントウムシの物語』
さとうつとむ
ぼくの妹で大学四年生の幸(みゆき)が、妊娠していることを告白。結婚七年目で子供ができないぼくと妻の千夏(ちなつ)は、妹の妊娠に困惑する。幸は、テントウムシが大好きな会社員の芦田(あしだ)と結婚し、大学卒業の直前に出産。その見舞いの帰り道、ぼくは、千夏から意外な報告を受けた……。
『バッタが逃げた。』
越智屋ノマ
四歳の息子が、バッタの入った飼育ケースを無断で開けた。家の中にバッタが逃げて嫁が激怒する。だが息子は、嫁を休ませてあげる為に餌やりを代わろうとしていたのだ。俺も息子を見習って世話に加わることにしたのだが、手際が悪くてバッタに逃げられ、再び嫁に怒られるのだった。
『煙にとけた思い』
坂田志乃
張本ふじの母は、ふじが高校時代より病床に臥せっており会話すらできない状態が続いている。ある日ふじは、婚約の挨拶のため、夫となる信也と共に彼の田舎を訪れる。就寝する際に渡された蚊取り線香。ふじの苦い記憶とは違う、母の思いやりが、その日発覚する。