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『バッタが逃げた。』越智屋ノマ


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9月期優秀作品

『バッタが逃げた。』越智屋ノマ

 
 事件は土曜の昼下がり。俺が息子と二人きりで家にいたとき、起きた。
 居眠りしている俺の隣で、四歳の息子が飼育ケースを開き、バッタに逃げられてしまったのだ。きっと暇を持てあまして、バッタを触って遊ぼうとしたのだろう。
 えぇ――んひぐひぐっ。と、息子は大泣きし続けている。
 俺はげんなりして飼育ケースを見つめた。三匹いたはずのバッタが、一匹残らず消えている。
「……聡太。ひとりで勝手に開けたらダメだって、ママと約束してただろ。ママ、すっごく怒るぞ」
「だって、ぼくはバッタを、バッタを……えぇぇ――ん」
 泣くなよ聡太、俺が泣きたい。鬼ヤンマと化した嫁の形相が目に浮かぶ……
 最近の嫁は、すこぶる機嫌が悪い。つわりのせいだ。
 嫁は現在二人目を妊娠中だ。食欲が落ちて体調も悪く、もともとキツめの性格が、ますます怖くなってしまった。
「バッタが……バッタが逃げちゃったよぅ。えぇ――ん」
 鼻水ぐしょぐしょの顔を、俺の胸にこすりつけて泣きじゃくる息子の聡太。長いまつげがびっしょり濡れて、毛先まで板状にくっついてしまっている。

 聡太はバッタが大好きだ。幼稚園の園庭にバッタがたくさんいるそうで、先日バッタを握りしめて園バスから降車してきたらしい――「ママ、バッタ3個も捕ったよ! いっしょにお世話しよ!」
 ワガママ・マイペースなこの4歳児に、お世話なんてできっこない。嫁にすべてが任されるのは、火を見るよりも明らかだった。
 飼うなんて面倒だし、バッタなんて逃がせばいい……と俺は思うんだが。4歳児のきらきらとした眼差しを実直に受け止めた嫁は、飼育環境を整えた。そして案の定、「聡太の世話で手一杯だってのに、どうしてバッタまで見なきゃなんないのよ」と愚痴りながら毎日一人で世話をしている。キュウリをやったり、こまめに霧吹きで水分補給したり、大変そうだ。

 嫁には申し訳ないが、俺はバッタにノータッチだ。虫嫌いだから仕方ない。
 息子にとっては可愛いペットのバッタちゃんでも、俺にとってはグロテスクな「ゴキブリもどき」に他ならない。ゴキブリを細く伸ばして緑に塗って、太股をたくましくすればバッタじゃないか。あの触角が気持ち悪い。すね毛を見るとぞっとする。
「パパどうしよう」
「あぁ――」
 このまま嫁が帰ってきたら、聡太はこっぴどく叱られる。それを思うと、胸が痛い。居眠りして目を離していた俺にも、少しは責任があるわけで……
「もう泣くな。ママがお買い物から帰る前に、一緒に捕まえよう。俺も……イヤだけど、がんばるから」
 かくして、俺たち父子の室内バッタ取りが始まったのであった。

  * *

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