『夏のにおい』
櫻井きりめ
昔から自由奔放で、堅物な父とは折り合いが悪かった。叱られることは度々あったけど、怒鳴られたことは一度だけ。あの夏の暑い日、風鈴の音だけが通り過ぎてゆく時間を、いつも不意に思い出させるのは…。
『家族のキモチ』
大木泉
大学生になって東京で一人暮らしを始めたタクミに、ある日父からのメールが届く。予定より一日早く出張から戻ると、母が家にいないのだという。タクミに会いに行ったのではと言われて、急ぎアパートに戻ってみると、果たしてそこには母の姿が・・・
『家族の湯かげん』
籐子
娘の美幸から数年ぶりに親子二人旅に誘われた梢。そこは、亡くなった夫とかつて新婚旅行で訪れた温泉街であった。娘を気遣うあまりすれ違う二人であったが、夫との思い出を通して、梢は本当に大切な事に気付き始める…
『吉岡さん家の再出発』
静谷亮治
家庭内のムードメイカーだった父、「吉岡ケイスケ」が仕事で多忙になり、気持ちがバラバラになりかけていた吉岡家。長女「マイコ」の林間学校準備を機に、再出発!内弁慶な長女マイコとおっとり次女のメイコを中心に織りなす、父ケイスケ、母マユミ、長女マイコ、次女メイコの四人家族のお話。
『砂浜に革靴』
青木なこ
父親が死んで10年、1人静かに暮らしていた母親が、急にグアムに移住すると言い出した。驚いて夫と共に会いに行くが、「昔父親と旅行で行ったグアムの海をもう一度父親と見たいので、仏壇を持って移住する」と言ってきかない母親。そんな母親を、夫が父親を真似た格好をして近所の海に誘う。
『三月の花火』
香名山はな
十五年前に妻を亡くした私は、成人した娘と大学生の息子と暮らしていた。職場の部下である聡子とは、七年付き合っていた。そんなある朝、突然仁志が「結婚する」と言いだした。頭ごなしに叱った私は、その数日後、聡子からの電話で衝撃的なことを告げられる。
『淡いピンク』
寅間心閑
竹子は娘夫婦からの同居の打診を断り続けている。良い話だとは思う反面、どこか億劫だ。その娘・由希は結婚をしてから七年目にようやく産まれた。亡くなった夫との思い出をたどりながら、歳を重ねて欲張る力が衰えている自分を改めて見つめ直す。
『美知の通勤電車』
司真
夫に先立たれたシングルマザーの川島沙織は、娘の美知を会社の保育所に預けるため、3年間、満員電車で一緒に通勤してきた。その最終日、美知は、今まで混んだ電車の中で助けてくれた通勤客達に折り紙のメッセージを渡してお礼をしていく。沙織は、そんな娘の姿に成長を感じ、うれしくなるのだった。
『父の弱点』
塚田浩司
僕は四歳の息子と妻と暮らしている。夕食を楽しんでいると虫が出た。僕は昔から虫が苦手。退治も妻に任せようとした。その時、父を思い出した。父は自分と違い強くてカッコいい男。虫なんて握りつぶす。そんな父に憧れを抱くがそうは慣れない自分を情けなく思う。しかしそんな父にも弱点があった