朝井リョウ
1989年5月岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2012年に同作が映画化され、注目を集める。2013年『何者』で、戦後最年少で第148回直木賞を受賞。2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他の著作に『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』など。
『世にも奇妙な君物語』朝井リョウ(講談社 2015年11月19日)
今年二十五周年を迎えたテレビドラマ、「世にも奇妙な物語」の大ファンである、直木賞作家・朝井リョウ。映像化を夢見て、「世にも奇妙な物語」のために勝手に原作を書き下ろした短編、五編を収録。
─新刊『世にも奇妙な君物語』拝読させていただきました。まずは、子供の頃から大ファンだというTVドラマ「世にも奇妙な物語」について、朝井さんが感じている魅力をお伺いできますでしょうか。
私が感じている魅力は何と言っても、「世にも奇妙な物語」は、観ている側が物語の背景や理由付け、辻褄合わせを考えずに、そのまま受け入れてくれる唯一のジャンルなのではないかということです。仮に小説で「ジャンケンで負けたら死ぬ世界」を書くとなったら、どうしてそうなるのか、その世界が生まれた理由を説明しなければいけません。でも、「世にも奇妙な物語」では、そういう必要が一切無いような気がします。
ここは「仇討ちが許される世界」です。はい、始まり。
というようにドラマは唐突に始まって、観ている方も、どうしてそういう世界なのか、あまり疑問を持たないんですよね。「部屋から出られない世界」でも、「そうか、出られないんだ。」と納得してしまいます。
─たしかに、奇妙な設定でも「世にも奇妙な物語」だからと、自然に受け入れているような気がします。
今は、移動中などの短時間にどんどんコンテンツを鑑賞する時代なので、分かりやすさというものがあらゆる創作の舞台で大切にされていると思います。僕も小説を書いていると、説明を省くわけにはいかない場面がとても多くて、それにすごくもどかしさを感じることが多いんです。だから、「世にも奇妙な物語」から漂う、分かりにくさが許されるというか、受け手の読解力や理解力を全面的に信頼している雰囲気にずっと憧れていました。
もちろん、どんでん返しや怖い話という要素にも惹かれますが、何より、観ている人の心が広くて、「世にも奇妙な物語」と言ってしまえばいきなり訳の分からない世界が始まってもオッケーという感じが一番好きですね。
─「世にも奇妙な物語」の世界を借りて書いてみて、その自由度の高さは感じましたか。
すごく感じましたね。最初に「世にも奇妙な物語」だと宣言してしまえば何でもありだ、と(笑)。ただ、今回、プロットの段階で実際に「世にも奇妙な物語」のドラマスタッフにお会いできる機会があって話を伺ったところ、「現代風刺」と「どんでん返し」のある物語が原作に採用されやすい、ということだったので、それにも則ったというところもあります。
─実際のスタッフに取材されたんですね。
そのときプロットを読んでもらったのが4本で、「シェアハウさない」「リア充裁判」「脇役バトルロワイアル」と、もう1本ボツにした別の話でした。それでその後、「現代風刺」の要素として、モンペ(モンスターペアレンツ)とネットニュースがテーマの話を考えたという順番でしたね。
─朝井さんはこれまでも「就職活動」や「アイドル」といった現代的なテーマで作品を書かれています。ご自身としてもそういうテーマで書く意識は強いのではないですか。
私の元来の性質として、ファンタジー小説と現代の話だったらやっぱり後者の方が書くのが楽しいので、今回は自然に両者歩み寄りという形でこういう話が生まれたんだと思います。私もこういう話が好きだし、「世にも奇妙な物語」も「現代風刺」が入っている話が好きという。
─作品を読んで、物語の前半で感情移入していたら、後半にそれが裏切られるという展開がとても好きでした。
そういう展開が好きなんですよね。『何者』(新潮社 2012年)や『武道館』(文藝春秋 2015年)もそうでした。『何者』は、読者=主人公=作者だと思わせておいて最後の最後に二つ目の等号を消したり、『武道館』もアイドルファンの著者がアイドルの話を、と言っておきながらの展開。読者に「おいでおいで」して油断させておいて、最後に後ろに回り込んで刺すという話が好きなんです。
─「立て!金次郎」は大逆転のラストで、一番ドキッとしました。
その作品は書いているときすごく楽しかったですね。執筆中はずっと罠を仕掛けているような精神状態なので、早くラストを書きたかったです。
─収録5話全てが『世にも奇妙な物語』的な世界でありながら、形式の異なる話でしたよね。
そうなるといいなと思って書きました。ドラマを観ていると、1話目はオーソドックスな怖い話が多いような気がしたので、まずは正統派の怖い話を用意しました。それで中盤に、わけのわからない法律が制定された国が舞台の話がよくあるなと思い、「リア充裁判」を2話目に。そして5話目は、大杉連さんの『夜汽車の男』が大好きなので、ああいう真面目ゆえのコミカルさ、コントっぽさみたいなものを意識して書きました。全体の構成も本家に似せています。
─5話目の「脇役バトルロワイアル」は、物語世界全体の次元を変える話ですごく面白かったです。
「脇役バトルロワイアル」では、コントや演劇っぽさを意識しつつ、TVドラマではできないことをやろうと考えました。ドラマでは、全5話の脚本家がそれぞれ違うので、話を超えた伏線みたいなことはできないんですね。だからこの作品では、「世にも奇妙な物語」の舞台を借りるだけでなく、全部一人で書かないとできない小説ならではの仕掛けを加えてひとつのパッケージにしました。
─映像化を期待しています。
これまで、オファーもなしに勝手に原作を書くということは無かったと思うので、面白がってもらえるといいですね。「まじか、こいつ」って引かれるかもしれないですけど(笑)。とにかく、私は貪欲に映像化を求めていますね。
─『世にも奇妙な君物語』に限らず、ご自身の作品の映像化についての考え方をお伺いできますでしょうか。
単純に嬉しいですね。デビューした時、上の世代の方に「小説じゃないと表現できないことを書くべきだから、あまり映像化というものは喜ばしいことではない。」と言われたりしたこともあるのですが、映像化によって本がたくさん売れれば出版社も私も嬉しいですし、映像になったことで初めて作品が届く人もいるでしょうし。私はただただ単純に嬉しいです。
─なるほど。
それに、映画化された作品を、自分の小説の素敵な生まれ変わりのように感じられるのはすごく幸せですね。映画「桐島、部活やめるってよ」では、小説の長所を、映像の長所を使って全く別の形に作り換えてもらいました。ストーリーもかなり変わったんですけど、全然嫌な気分はしませんでしたね。それはきっと、映画を作って下さった方たちの神業をたくさん観ることができて、単純に嬉しかったからだと思います。小説を映像にすることの意味をすごく理解している方たちだったので、とても幸せな映画化でした。そういう経験もあって僕は、映像化へのポジティブな思いがとても強いんですよね。
─話題が変わりますが、私たちブックショートは、「おとぎ話や昔話、民話、小説などをもとに創作したショートストーリーを公募する企画です。先行作品をもとに新しい作品を作ることについて、お考えがあれば教えてください。
そういう作品を書いたことは無いのですが、同じ題材やテーマをもとに小説を書くというのは、作家の個性が際立つやり方だと思います。例えば、作家何人かで同じ観光地を一緒に旅行してそれぞれ文章を書いたとしたら、おそらく内容はバラバラになるでしょう。視点の違いが明確に表れると思うので、ぜひ読んでみたいですね。
─最後に、小説家を志している方にアドバイスをいただけますでしょうか。
私は、「視点」が小説において一番大切なものだと考えています。文章を書く能力ももちろん大切ですが、それは訓練すれば上達します。結局は「人生」や「愛」というようなものを、みんなが必死に別の形で、差し出し方を変えて表現しているのが小説の世界だと思うので、「ものを観る力」「自分だけの視点」を築くことができたらいいな、と私も書きながら思っています。
─朝井さんは「自分だけの視点」をどのように身につけたのでしょうか。
私の場合は、学生時代に毎日日記をつけていたのが良かったような気がします。宿題として先生に提出して、一言コメントが返ってくるというものでしたが、学校でみんな同じような生活をしているなかで、できるだけ他の人が書かないようなことを意識して書いていました。今になったら、あれはすごくいい訓練だったなと思いますね。
─ありがとうございました。
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