今日マチ子 [Machiko Kyo]
漫画家。1P漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」が書籍化され注目を浴びる。4度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。戦争を描いた『cocoon』は劇団「マームとジプシー」によって舞台化。2014年には第18回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。近刊に『いちご戦争』『5つ数えれば君の夢』等。
─今年5月に手塚治虫文化賞「新生賞」を受賞され、その後、5月は『ヒカリとツエのうた』、7月に『いちご戦争』、『cocoon on stage』、『ペコポコ』、8月には『5つ数えれば君の夢』と立て続けに新刊を出版されています。相当お忙しかったんじゃないですか。
作品の連載自体は去年で割と一段落していましたが、今年に入ってからその5冊分の本の準備と新しく始まった連載などで、自分としては忙しかったです。でも、他の漫画家さんに比べたらそんなでもないかもしれませんが。8月以降は、本にまつわるトークショーやラジオに出演したりと、毎日のように対外的なことをやっていましたね。あまり人前に出る仕事は慣れていないのでちょっと疲れましたけど、その分、普段会えない方とお話しできたりして楽しかったです。今はあまり外に出なくて、沈没というか部屋に引きこもって原稿を描いていますね。
─連載に加えて、ご自身のブログ『センネン画報』も10年以上続けてこられていますね。読者としては今日マチ子さんのたくさんの作品を読むことが出来て嬉しい限りですが、それだけの執筆量をこなす秘訣はどこにあるのでしょうか。
漫画家として自分自身がまだまだ成長途中にあるという気持ちなので、とにかく描かないと上手くならないからやるだけという感じですね。もちろん身体を壊さないようには気をつけていますが、さぼるっていうことは基本的にはしないタイプです。真面目に部活に励む高校球児みたいにやっています(笑)。
─今日マチ子さんの作品には、『センネン画報』に代表される詩的な世界から、『ペコポコ』のような愛らしいもの、そして、『いちご戦争』、『アノネ、』、『cocoon』などのシリアスな題材を扱った物語まで、とても多様性がありますね。
戦争というテーマについてはずっと取り組んでいるので、最近は戦争について考える、という作品は多いですね。あと、私はいわゆる“少女”を描いていると言われていますけど、少女を通して人間の汚い部分とかキレイな部分とか、あらゆるものを一緒くたに描きたいという思いはあります。少女だからといっていつも純粋無垢で美しいというわけではなく、非常にずるい部分やえげつない部分もある。それを含めた象徴としての少女、つまり、少女を通して人間というものを描いているつもりです。キラキラした萌え系というか都合のいい少女ではなく、人間全体の様々な感情を少女に託しています。
デビュー当時はまだ、そういったドロッとしたものを表に出すということはあまりできていなかったのですけど、最近それができるようになってきたのかな、と思っています。
『いちご戦争』
NO.1951
自決のあと After self-decision
─わたしたちは、短編小説を公募し大賞をショートフィルム化するというプロジェクト「Book Shorts」を企画しました。今日マチ子さんはご自身の作品の映像化についてはご興味ありますか。
具体的な映画化のお話は、あるとも無いともなかなか言い難いという状態なんですけど、映像化には常に興味を持っています、とだけ(笑)。
─今年8月に出版された『5つ数えれば君の夢』は、東京女子流が主演した同名映画とのコラボレーション作品でしたが、そういった試みはいかがでしたか。
あれは、そもそも映画が先にあって、それを盛り上げる企画の一つとしての漫画、というものでした。本当は映画を観てから描く予定だったのですが、映画の制作が遅れに遅れたことで、観てから描くことができなくなってしまった。だから、タイトルと登場人物だけ同じにして、あとは勝手に描く、という形になりました。一日だけ撮影現場を見学して、どういう話かだけ確かめようとはしたんですけど、とりあえず学園モノということしかわからなかったです。そんな事情もあって中身はほとんど違うので、映画とは別物の作品になりましたね。自由に描けました。
後から完成した映画を観たら、だいぶ違っていてむしろ良かったんじゃないかなと思いましたね。変に似通っちゃったら良くないな、と心配していたので。
─「ブックショート」では、昔話や民話、小説などをもとにしたオリジナル短編小説を公募します。今日マチ子さんも具体的な題材のある物語を多数執筆されていますね。具体的なモチーフがある場合とそうでない場合では、執筆の際どういった違いがありますか。
物語ではないですが、史実が前提にある場合は、その史実との距離感のとり方に非常に敏感になります。例えば、亡くなった方やそのご遺族の気持ちを考えなければいけない。そこには非常に難しい問題が含まれていますよね。あとは、私がライターをしていたこともあって、取材をして描くという気持ちがあるので、行ける場所であれば必ず行くようにしています。
─今年5月に出版された『ヒカリとツエのうた』では、“瞽女(ごぜ)”を主人公に物語が展開していきます。
そもそも私が、つげ義春がとても好きで、彼が各地を旅しながら旅のエッセイ的な漫画をよく描いてらっしゃって、そのなかで東北も訪れていたので、真似してみたかったというのがきっかけですね。ただ、私が旅エッセイを書いても同じになってしまうので、何かモチーフを見つけてこようということで、東北に取材に行きました。イタコにも会いに行きましたね。
─イタコに会ってみて、いかがでしたか。
自分の亡くなった父親の話とかを聞きました。そもそもイタコって霊を降ろす人と言われていて、癒しを与えるような存在ではあるんですけど、私からしたら、依頼者のデータを全部頭のなかに叩き込んで、自分の中でストーリーを作って、相手が求めるものをちゃんと伝える、というものすごいフィクションの作り手というか、即興で物語を作ることができる作家としてのプロフェッショナルのように感じました。それで、イタコと作家の共通点を見つけたような気がしましたね。霊的な存在というよりは、物語を作るプロだと思いました。
─同じ物語の作り手として参考になったことはありましたか。
作家というのは自分の作りたいものもあるし、一方でみんなに喜んでもらえるお話を作りたいということもありますが、イタコは完全に、みんなが求めているものを出すということが出来ているので、そこを見習わなきゃなと思いました。独り善がりにならない、というかやっぱり人を喜ばせるために作家という職業があると思い知りましたね。
─イタコと違って、今日マチ子さんは一つの物語に対して何百万人の読者がいます。読者が今日マチ子さんに求めていることはどんなことだと思いますか。
みんな表面的には可愛らしいとか若々しいとか爽やかとか、そういうプラスのイメージだとは思いますが、本人が気づいていない部分の欲求みたいなものをちゃんと気づかせるというのがもう一つの役割なんじゃないかな、と考えて描いています。だから読者には、自分のなかに潜んでいる嫌なところとか、他人には言いたくないって抱えている部分を漫画の中で見つけて安心してもらいたいという気持ちはあります。悩みを持っているのが自分だけではないとか、隠していたこととかも、むしろそれはみんなが持っていることなんだな、と。
─「Book Shorts」の応募者をはじめ、これから物語を書こうと思っている方にアドバイスやメッセージをお願いします。
私も教えてもらいたい。毎回困っています(笑)。
ただ、最初はあんまりお手本通りに何かしようとは思わない方がいいんじゃないかと思います。自分で思いついたり考えたりしたオリジナルのアイデアを大事にしてほしいですね。特別な体験をした人が特別な物語を書ける訳ではなくて、日常をどう捉えているかとか、その人の視点が大事だと思います。自分には何もない、とかよく言う人がいるんですけど、そんなことは絶対に無いはず。よくよく丹念に自分のまわりを見回してみるといいんじゃないかなと思います。
あとは、やっぱり何か書く目的があった方がいいですね。自分が楽しみたいから書く、と思うのも一つですし、誰かを喜ばせたい、楽しませたいと思いながら書くというのも一つ。そのどちらかがあるといいと思います。
─では、最後に今後のご予定を教えてください。
年内に連載が新しく4本始まる予定です。小さい連載ですが、デジタルが1本、文芸誌が1本、そして漫画誌が2本です。まずは、講談社の漫画誌「Kiss」の11月号(9/25発売)からスタートします。
─そちらも楽しみにしています。ありがとうございました。
*賞金100万円+ショートフィルム化「第5回ブックショートアワード」ご応募受付中*
*インタビューリスト*
馳星周さん(2019.1.31)
本谷有希子さん(2018.9.27)
上野歩さん(2018.5.31)
住野よるさん(2018.3.9)
小山田浩子さん(2018.3.2)
磯﨑憲一郎さん(2017.11.15)
藤野可織さん(2017.11.14)
はあちゅうさん(2017.9.22)
鴻上尚史さん(2017.8.31)
古川真人さん(2017.8.23)
小林エリカさん(2017.6.29)
海猫沢めろんさん(2017.6.26)
折原みとさん(2017.4.14)
大前粟生さん(2017.3.25)
川上弘美さん(2017.3.15)
松浦寿輝さん(2017.3.3)
恩田陸さん(2017.2.27)
小川洋子さん(2017.1.21)
犬童一心さん(2016.12.19)
米澤穂信さん(2016.11.28)
芳川泰久さん(2016.11.8)
トンミ・キンヌネンさん(2016.10.21)
綿矢りささん(2016.10.6)
吉田修一さん(2016.9.29)
辻原登さん(2016.9.20)
崔実さん(2016.8.9)
松波太郎さん(2016.8.2)
山田詠美さん(2016.6.21)
中村文則さん(2016.6.14)
鹿島田真希さん(2016.6.7)
木下古栗さん(2016.5.16)
島本理生さん(2016.4.20)
平野啓一郎さん(2016.4.19)
滝口悠生さん(2016.3.18)
西加奈子さん(2016.2.10)
白石一文さん(2016.1.18)
重松清さん(2015.12.28)
青木淳悟さん(2015.12.21)
長嶋有さん(2015.12.4)
星野智幸さん(2015.10.28)
朝井リョウさん(2015.10.26)
堀江敏幸さん(2015.10.7)
穂村弘さん(2015.10.2)
青山七恵さん(2015.9.8)
円城塔さん(2015.9.3)
町田康さん(2015.8.24)
いしいしんじさん(2015.8.5)
三浦しをんさん(2015.8.4)
上田岳弘さん(2015.7.22)
角野栄子さん(2015.7.13)
片岡義男さん(2015.6.29)
辻村深月さん(2015.6.17)
小野正嗣さん(2015.6.8)
前田司郎さん(2015.5.27)
山崎ナオコーラさん(2015.5.18)
奥泉光さん(2015.4.22)
古川日出男さん(2015.4.20)
高橋源一郎さん(2015.4.10)
東直子さん(2015.4.7)
いしわたり淳治さん(2015.3.23)
森見登美彦さん(2015.3.14)
西川美和さん(2015.3.4)
最果タヒさん(2015.2.25)
岸本佐知子さん(2015.2.6)
森博嗣さん(2015.1.24)
柴崎友香さん(2015.1.8)
阿刀田高さん(2014.12.25)
池澤夏樹さん(2014.12.6)
いとうせいこうさん(2014.11.27)
島田雅彦さん(2014.11.22)
有川浩さん(2014.11.5)
川村元気さん(2014.10.29)
梨木香歩さん(2014.10.23)
吉田篤弘さん(2014.10.1)
冲方丁さん(2014.9.22)
今日マチ子さん(2014.9.7)
中島京子さん(2014.8.26)
湊かなえさん(2014.7.18)