いしわたり淳治(いしわたり・じゅんじ)
1977年8月21日、青森県生まれ。1997年にデビューしたロックバンド・SUPERCARのメンバーとして全曲の作詞を担当する。バンド解散後は音楽プロデューサー・作詞家として活動し、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、ねごと、NICO Touches the Wallsなどのプロデュースを担当。作詞家としてはSuperfly「愛をこめて花束を」、少女時代「PAPARAZZI」、SMAP「Mistake!」、剛力彩芽「友達より大事な人」などの作品がある。著書に小説『うれしい悲鳴をあげてくれ』(ちくま文庫)。
『うれしい悲鳴をあげてくれ』いしわたり淳治(ちくま文庫 2014年1月8日)
作詞家、音楽プロデューサーとして活躍する著者の小説&エッセイ集。彼が「言葉」を紡ぐと誰もが楽しめる「物語」が生まれる。
─著書『うれしい悲鳴をあげてくれ』(ちくま文庫)が15万部を突破!おめでとうございます!まず、タイトルがとてもユニークだと思いました。
ありがとうございます。「嬉しい悲鳴があがる」という言葉は聞いたことがあっても、それを頼むことって無いですよね。聞いたことのある言葉が聞いたことの無い響きに変わるところに面白さがあるのではないでしょうか。ショートショートで大事なことは“角度を変えること”だと思うので、それを象徴するような、パッと見て面白みがあると思ってもらえるようなタイトルをつけました。作詞でもよくやる言葉遊びですね。
─本業である作詞と小説を書くことの違いについて、いしわたりさんのお考えを教えて下さい。
ほとんどの音楽はメロディが先に作られて、その後に歌詞がつけられます。つまり、歌詞はメロディの持つ雰囲気やテンポなどの制限があるということです。だから作詞は、小説のように書きたいことを自由に書くというよりは、その曲が持っている何かを“翻訳する”というイメージですね。朝聴く曲なのか、夜聴く曲なのか、そういう要素はメロディが持っているので、それが世の中に最も伝わるように翻訳するのが作詞です。小説と比べてそういう違いがあると思います。
また、メロディはサビになると盛り上がるので歌詞はその力を借りることができますが、小説の場合は自分で盛り上がりを組んでいく必要があります。言い換えれば、言葉のリズム感や話の展開によって止まっているものを動かすのが小説で、メロディに合わせ動き続けていくのが作詞というイメージですね。
─文字数の違いもあるかと思います。
歌詞は小説より文字数が少ないため、言葉の持つアート的な要素、組み合わせの妙は断然強いですね。一行にフォーカスするコピーライティング的なところがあると思います。その反面、歌詞は耳で聞いて理解できるものでないといけないので、それを気にする必要が無いという意味では、小説の方が言葉の表現の自由度は高いのかもしれませんね。
─『うれしい悲鳴をあげてくれ』収録作品のショートショートには、「密室のコマーシャリズム」、「顔色」など、オチが緻密に計算された作品がありますね。
ショートショートを書くときは、オチを先に考えてそこから場面設定や人物のやりとりを書いていくのですが、「顔色」だけはちょっと特殊で、この話をいつ書いたのか覚えてないんです。ある日、PCのデータを整理していたら出てきて「あ、こんな作品あったんだ」という。酔っ払ってたんですかね(笑)。でも、なんかこれ面白いじゃん、という感じでした(笑)。
─それもすごいですね(笑)。さて、話題が変わりますが、私たちブックショートは、昔話や民話、小説などをアレンジした(二次創作した)作品をテーマに短編小説を公募中です。音楽の世界でもカバーがあったり、過去の作品に影響を受けて曲を作るということがあると思いますが、いしわたりさんはそういったことについてどのようにお考えでしょうか。
まず、今、カバーアルバムがたくさん売れていますけど、カバーされている曲で一番多いのはインターネットが発達する以前に流行った曲なのかなという印象です。つまり、世の中で流行している曲を皆が自然と聴いていた時代ですね。今は、どんな有名なアーティストの曲であれ無名なバンドの新曲であれ、インターネットを使って自分から情報を検索したりサイトで聴いたり買ったりということが普通になっていて、その結果、流行が生まれにくくなっています。だから今カバー曲が売れている背景には、流行というものがあった時代に対するノスタルジーのような要素があるのではないかと思います。
─なるほど。
歌というのはそもそも人と人のコミュニケーションの中から生まれるものだと思うのですが、最大のコミュニケーションツールがスマートフォンになった今、歌の世界観や役割、在り方というのはかなり変わって来た感じがします。今の音楽には、メールで書いた文章みたいなヒリヒリしたリアリズムが歌詞としてそのまま乗っかっているものが多い、というか。昔はもっと歌詞の世界が豊かな時代で、当時の奥行きや含みのある音楽を聴くと、そういう時代ならではの“ゆとり”が音として鳴っている感じがします。だから、どこか昔話を聴くような安心感を持って昔の曲のカバーソングが聴けるんですよね。もちろん、その曲自体が長い時を経ても人の心に響く強いメロディや歌詞を持っているからカバーされているんですけど、今の音楽にはない空気感がカバーソングにはあるからこそ、今聴かれているのではないかなと思います。
─過去の作品に影響を受けた作品づくりについてはどのようにお考えでしょうか。
いつの時代も過去の影響はあると思いますが、現在はそのサイクルがどんどん早くなっている気がします。例えば60年代ならビートルズ、ストーンズ、70年代はウッドストックやディスコ、80年代はエレクトロポップ、みたいにその時代の音楽がありました。今はそれらを自由にミックスして音楽が作られているのですが、情報が早過ぎてすぐに「それ古いよ」となってしまって、ブームが生まれにくいし、生まれたとしても長続きしにくい。果たして、30年経って今年を振り返った時、「それって2015年の流行だよね」という音楽が存在するのかどうか。作っている側の体感としては、去年流行った音楽をもし今日オマージュしても、それはブームが去年から続いているというよりも、1年ぶりのリバイバルというくらいのスピード感ですから。
─小説の話題に戻りますと、『うれしい悲鳴をあげてくれ』の「大きな古時計の真実」や「窃盗のすすめ」、『短短小説』の「招き猫」は、まさにブックショートの公募テーマにぴったりの作品です。小説を書く際、過去の作品を取り入れることについてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
みんなが「これってこういう話」と思っているものを引っ繰り返すことには醍醐味がありますよね。それに、既に皆が知っている話だから登場人物や背景の説明を省けたりとか、メリットは多いかなと思います。少ない文字数のなかで物語を仕上げようという場合、それはなおさらメリットだと思います。
─最後に、言葉を書く仕事を目指している人にメッセージいただけますでしょうか。
言葉を上手く使えるということはとても楽しいし素敵なことだと思うので、どんどん研ぎ澄ましてどんどん世に出てほしいです。いい言葉で溢れている世の中は素敵な社会だと思います。
僕はいつも周りにある言葉を意識しています。家ではテレビで話されている言葉が耳に入ってきますし、電車に乗れば吊り広告のコピーに目が止まり、インターネットを覗けば無数の文章が書き込まれています。つまり、自分が普通に暮らしているだけで触れる言葉というのが少なからずあるんですよね。そういう言葉について「これってもっとこう書けるんじゃないかな」と思いながら暮らしています。いきなり小説を書こうと大上段に構えるよりは、身近なところにある言葉たちからヒントをもらったり、違和感を感じたり、イライラしたりというのが出発点にある方が、多くの人を相手に作品を作っていく上では大事なのかなという気がしますね。
普通に自分が生活しているときに触れている言葉というのは、同じような生活をしている人も触れているものだと思うので、そこでの共感というものはあると思うんです。それをもっといい言葉にしたら、自分と同じ感覚の人、同じような生活をしている人は嬉しいと思うんですよ。そういう人を手掛かりにするというのが最初はいいんじゃないでしょうか。
─ありがとうございました。
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