小説

『ヘルメット・ガール』益子悦子(『鉢かつぎ姫』(河内の国))

「ずっとファンでした。いえ、今も死ぬほどファンですけど」
もう何を言っているのやら分からない。でも美音は続けた。
「あなたに憧れてギターやってます。あなたに憧れてこの高校も頑張って入りました。軽音楽部です。これから発表します。まだ全然下手ですけど―」
すっとJUNの白い指先が伸びると、美音のヘルメットに触れた。
「がんばってね」
気がつくとJUNの姿はなかった。透き通るような美しい声。ああ、今自分が目にしたものは夢だったのだろうか。

高鳴る気持ちをどうすることもできず、美音は校庭に飛び出した。叫びたい。本当は声を大にして叫びたい。がんばってね、とJUNは声をかけてくれた。このヘルメットにも触ってくれた。ありがとう、ヘルメット!
「何やってんの」
声に振り向くと文化祭実行委員の法被を着た雪人だった。
「そろそろ出番じゃね?」
そうだ、こんな所で油を売ってる場合ではない。すぐにでも音楽室に戻らないと、と思った矢先、美音の足元はふらつきその場にしゃがみ込んだ。

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