もう、ヤケクソだ。
そして、不服そうな表情を浮かべた王侯たちが、熱狂する群衆から離れていくのが見えた。
彼らとは、いずれ戦わなければならなくなるだろう。
はぁ、うんざりだ・・・。
数えきれぬほどの兵と騎馬が、ブリテンに向かって進軍していた。
現在、余はローマ帝国との戦いに勝利し、凱旋の途上にいる。
王位継承に反対する王たちとの抗争に勝利した余は、ブリテンに侵入しようとする野蛮な異民族どもを撃退。ローマの統べる大陸へも領土を広げることに成功した。
なに、余がすごいのではない。
余に仕えている円卓の騎士たちが、すべて勝手にやってくれたのだ。
余は、やはり名君ではないらしい。
聖剣を引き抜くまいとしている最中に考えていた、あの悲観的な未来予測はすべて外れてしまった。それどころか、史上まれに見る征服者として、アーサー王の名は全ヨーロッパに轟いているのだから。
あんなに悩んで損しちゃった。
このぶんだと、いつかどこかで討死にするという、あの予想も外れるのだろうな。
今、余の望みは老衰で死ぬことだ。
戦場ではなく、ベッドの上で。
苦しむことなく、眠るように逝きたいのだ。
英雄はこのへんで廃業する。
これ以上の領土拡大などもってのほか。
あの聖剣の前に立った若き日のように、グズグズと手をこまねいて生きるつもりだ。
余にはそれが合っている。
もう、同じ失敗はしないぞ。
余の気持ちを読み取ったのか、すぐ隣で馬に乗っていたマーリンがため息をつく。
彼は老いた肩をすくめると、「無駄だ」といわんばかりに馬の腹に小さく拍車を入れた。