世の中に女の子ってたくさんいるんだな。公園前にぼうっと立っているだけでも目立つのに女の子が通るたびに期待に満ちた目で眺めているのだ。不審者と間違われても文句は言えない。しかし通りかかる女の子がみんな「何この人」「気持ち悪い」と汚いものを見るように眉をひそめるのがつらい。
「どんな子かわかんないけど、早く来てくれないかなー」
そもそも来てくれるとは限らないのだ。膨れ上がる不安にいらいらぐるぐる挙動不審なオレはついに不機嫌モードでがつがつと近寄ってくる女の子を発見し「あ、絶対にあの子だ」とうれしくなる。
赤い唇をきゅっと結んで眉はきりりとあがり、マスカラで縁取られた大きな目はぐるんぐるんと怒りに燃えている。
「何なのよ、何なのよもう。昨日の今日なのに。ぜんっぜんわかっていないんだから」
オレの前に来るなりかみつくように怒鳴り出す。
「ごめんごめん」
両手を胸の前で開いてホールドアップ、とりあえずあやまってみる。
「しかも、緑町第一公園、って。それだけで場所がわかると思う?」
「わかったから来てくれたんじゃないの?」
「そりゃ調べたからよ。何なのよ、いったい」
肩のあたりでくるんくるん跳ねる髪が彼女の怒りを示すように揺れる。
「あのさ」
深呼吸。
「オレが誰だか、きみ、知ってる?」
口に出してそれを言ってしまうとすいーん、一瞬、あたりの音が消えたみたいに感じた。 ばこん。
波打つみたいに大きく感じる、心臓の音。
彼女の目がさらに大きくなって、まゆがひゅいっと上にあがる。
ばこん。
口は呆れたような驚いたような半開き。
しんと消えていたようなあたりの雑音が再び戻ってばこんぼこんと聞こえていたオレの心臓の音もその中に紛れ、ぽっかーんとたたずむオレと彼女はしばし沈黙のまま向き合う。
「へ?」
間抜けな第一声と半笑い、同時にあふれだす、支離滅裂に混乱する彼女の思考に今度はオレの方が唖然とする。
嘘でしょ、やだ、何言ってんの、仕返し?冗談?もうやめてよね、こいつと関わるのもう勘弁、何よりあたし、もう別れたんだから関係ないでしょ!