小説

『人魚姫の代償』広都悠里(『人魚姫』)

「人魚姫は自分が望むものを手に入れるために魔女が望むものを差し出しました。何か欲しいなら何かを差し出す、それが取引というものです」
「何が望みだ……」
 オレの声はかすれた。
 人魚姫の話は救いがなかったわけではないがハッピーエンドではなかったことを思い出す。
「さあて、何にしましょうか」
 プロミングされた機械のものとは思えないコンシェルジュ中川の声を聞きながら、じっとりとした嫌な汗が吹き出る。
 最初はひとつの願いだったはずなのに、元に戻すためには二つの取引になってしまうのか。嫌な予感とだまされたような気持ちにさいなまされながら、それでもオレは目を閉じて息をひそめ、スマホの向こう側からの声をしんと切羽詰った気持ちで待った。

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