小説

『人魚姫の代償』広都悠里(『人魚姫』)

 突然、ぶるぶるんと体のどこかから唸り声と振動が発生、うわ、と思わず声に出してびびりながらばたばた体中を探り、唸りながら震えるうすっぺらい四角い金属の塊をポケットの中から発見する。
「なんだよこれ」
 びっこんびっこん光が点滅するところをみると機械のようだが、いったい何のためのものなのかさっぱりわからない。
「あーもう、うるせえ」
 勝手に画面に現れた何かを見つめながらぎゅうと握りしめると「もしもし」と女の声がのっぺりした画面の中から聞こえた。
「うお」
 機械を握りしめたままのけぞった。しゃ、しゃべった?
「は?あ?え?」
 わけのわからない声を発しながら手の中の四角い物体をのぞき込む。
「ユウヤ?」
「あ、うん」
 よくわからないまま、うっかり返事をしてしまう。
「もう、全然電話に出ないしラインも無反応だし、心配するじゃない」
「ん……ごめん」
 ユウヤって誰だ。
「いいけど。昨日は私も、ちょっと悪かったなって思って」
「きのう……」
「ユウヤ、どうかした?」
「う、ううん、きのう、きのうってその、何かあったっけ」
「え?」
 女の声が強く太くなり、オレはびびる。
「いや、いい、ごめん」
 はあーって重く深いため息をつかれて、オレはますますわけがわからなくなる。
「生きているならいい。じゃあね」
「待って。切るな。っていうか、その、ええと」
「何?」

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