「え、な、なんでや!?」
「飲んだ仲間達と終電来たから、走ったんだって」
大見さんのハンバーグを食べていた手が止まる。ハンバーグの上に載っていた半熟卵の黄身がねっとりと、ハンバーグから皿へと落ちていく。
「それ、もしかして、あれやったんか」
「そう、間島はGだったんだよ」
俺はスマホから画像を見せる。
「うわぁ……」
若者が来ていそうな派手なコートを着た、禿げ老人が絶命している。
「なんで、普通に入らんかったのかなぁ。別にうちの院は、年齢制限ないやろ。そしたら、友だちやて加減して走ってくれたんちゃうん?」
「その先を見据えてたんだよ、間島はさ」
俺の視線の先を大見さんは見る。
「なるほどなぁ」
若い男が数人の女子大生と笑いながら酒を飲んでいる。
「もー! 先生やめてよぉ!」
女子大生が若い男に擦り寄りながら、盛り上がっている。
「七十過ぎたジジイ先生じゃ、ああはなれない」
間島は院で修士号を取って、大学の教員になると、常々大学院で宣言していた。
「間島みたいにさ、えらい教授の腰ぎんちゃくになって、おべっか使って、なおかつGだった訳じゃん。そういう最低な奴は天罰喰らうんだよ」
俺はホッピーを掲げ、一人で祝杯を挙げた。
「そうやったんか……ほんと、おとぎ話みたいな世の中になってもうたよなぁ。ガリバー旅行記みたいや」
「ガリバー旅行記? あの小人の国とか行くやつだっけ?」
「そうやけど、他にも色々あってな。死なない人間がいる国に行く話があるんや。えっとなんやったかな、ラグナグの国やったかな。死なないんやけど、年は取るから、八十越えたら、死人とみなされて、邪見にされるっていう、救いのない話」
「はは、救いようねぇな。でも、こっちの世界じゃ逆だよな。死ぬけど、年は外見上、取らないっていう」
「あ、そやな」
ふと、正面で飲んでいる学生たちと目が合う。
疑惑の目。
ははん。なるほど。二十代の俺が七十代の大見さんとため口で話しているからって、俺をGだと思い込んでいるだろう。
「大見さん、面白いもん見せてあげよっか」
「ん? なんや」
「はい」
「お、これって」
俺は財布から、一枚のカードを出す。大きくアルファベットで「Y」が描かれている。
カードを指に挟んで、クルクルと回転させた。