小説

『ラグナグの鏡』風呂屋龍乃介(『ガリバー旅行記 第三篇』)

「ん? ああ、ええけど」
 輝命会のホームページを見る。アニメーションで、魚が飛ぶ。
 もう一度、よく凝視した。
 赤と黄色の丸い模様がついていることがわかる。
 思い出した。今井さんが俺の顔を拭いてくれたハンカチにも確かに赤と黄色の模様があった。囲っている模様は……魚、鯉だった!
「まずい!」
「どないしたん!」
「今西さんは……現代宗教の研修制度を研究テーマにしてるって言ってたんだ。
 俺の顔を拭いてくれたハンカチは、最初に研究調査に行った際に、名刺と一緒にくれたものだって……もちろん断ったんだけど、ハンカチの素材もいいし、柄もかわいいから気に入ったし、もらっちゃったって」
「え……どういうこと?」
「今日も行ってるんだ……調査しにさ……輝命会に!」
 俺は研究室を飛び出した。

 
 大学前でタクシーを拾い、輝命会の本部に到着する。
 教団本部へと続く長い階段を見上げると、人影が降りてくるのがわかった。
 点滅を繰り返す外灯の下に降りた時、人影は今西さんだとわかった。
 数段先からは、刃物を持った教団信者が追いかけてくる。
「今西さん!」
 俺は大声で叫んだ。
 今西さんは俺の声に気付き、さらに足を速める。
「あ!」
 残り数段で今西さんは足が絡み、落下した。
「おおっと!」
 俺は咄嗟に走りだし、両手を広げる。
 今西さんを抱きかかえた。
「早く!」
 俺は今西さんと手をつなぎ、全速力で懸命に走った。

 
 塀を乗り越え、敷地内の施錠していない小屋に逃げ込む。
 ようやく、鼻で息を吸い込むと、懐かしいマットの匂いがした。 
 どうやら学校の体育館倉庫のようだ。
 息をしばらく、ひそめる。聴こえるのは、さっきより本降りになった雨音だけだった。雨音が俺の耳に響くだけ、呼吸もゆっくりとなる。
 我に返り、ポケットのスマホを出す。
 ディスプレイの光が俺と今西さんを照らした。
「カード……持ってる?」

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