小説

『ラグナグの鏡』風呂屋龍乃介(『ガリバー旅行記 第三篇』)

「ヤングカードやん! 検査受けたん?」
「うん。だってさ、最近、企業でもヤングカード提示して下さいって言われる場合多いって聞くし。まぁそれに最新型のウソ発見器ってどんなもんかってのも興味あったから」
 俺はこれ見よがしに、正面の学生たちにカードをちらつかせてやった。
 案の定、学生たちは驚き、バツが悪そうに酒を飲み始めた。
 「ヤングドラッグ」が普及することで、多くの社会問題が多発した。深刻だったのは「年齢詐称」だ。二十代として、採用した若者が実は八十代だったという詐欺は、ニュースでは飽きられて放映されないほど多発していた。
もちろん、内面も二十代だったら、なんの問題もない。
 しかし、「ヤングドラッグ」のラベルが後々、こっそり書き加えられたように、あくまで若くなるのは外見だけ。薬を飲んでも中身は確実に老化していくのだ。腰が曲がっていたり、動きがかなり遅かったりと、いくら若くても一発で中身は老人だとわかる者も多い。
 その一方で巧みに内面の年齢を隠し、若者に紛れ込む「若者」も多かった。履歴書を詐称し、厳しい年齢制限のある会社から、まんまと内定をもらうのだ。現在の我が国では、雀の涙ほどしかもらえない年金に比べて、若者の月給の方が遥かに魅力的であり、自分が以前やっていた仕事の関係ならば、そこまで無理せずともコツである程度は出来る。
 さらに余談だが、一部の不届き者は、若い異性とも巡り合い、結ばれているらしい。
 もちろん企業側も黙っていない。
 我が国において大変希少な、若者を採用してみたものの、ある日、間島のように、急に息絶えてしまう、世に言う「ヤング詐欺」をなんとか減らしたいと考えている。
 そこで編み出したのが、最新型ウソ発見器『ジェネレーション』だった。体内の医学調査は人それぞれの生活習慣によって、健康年齢が違うので、正確な年齢が出しづらい。
ジェネレーションは、若者を被っている老人を見破る高度な質問をし、心理的動揺においこみ、内面の年齢を測定するのだ。
 鋭い質問はかなり相手を動揺させ、大抵のGは完敗し、「老人認定」を受けてしまう。
 俗に言う「ジジイ認定の「G」認定(ババアも含む)」だ。
 逆に全く反応しないと、純粋な若者として認定され「Y(ヤング)カード」を受理される。この検査、的中率は驚異の八十九パーセントで、信頼度も厚い。
「じゃあ、あの席が一番後ろの娘も、このカード持ってるとええなぁ!」
 いつの間にか、ビールを注文した大見さんが、顔を真っ赤にして呟く。さすが年の功。俺が気になっている今西さんのことを指していることは明白だった。
 今西さんは、四月から同じ院生として大学院に通っているが、誰とも交流せず、後ろの席でひたすら勉強している、大学を卒業したての二十代の女子だ。
 目がパッチリとした二重で、身体は細いが胸がデカ……いや、やめておこう。
「いやいや! ないでしょ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10