高校を卒業してから故郷のスーパーで働いてきた倉田貴子だったが、三十歳を目前にして、些細なことをきっかけに田舎から上京した。しかし、都会での暮らしは思い描いていた生活とはほど遠いものだった。
生と死の狭間、とも形容される、とある山中の崖上。写真家の男が訪れると、そこにいたのは、白紙のキャンバスを前に座る盲目の老人だった。桜が咲く時を待っているという老人は、男に自身の半生を語る。桜が満開を迎えた時、二人はそれぞれに、真実の景色と出会う。
ある水族館で飢えた蛸が飼われていた。皆、蛸は死んだと思っていたが、生きており、食物がなくなってしまうと、蛸は自分の足を食い、内臓、外皮、脳髄、胃袋と順々に食べつくしてしまった。蛸は消滅してしまったが、死ななかった。永遠に欠乏を不満をもった、人の目に見えない動物となって生きていた。
サークルの飲み会で知り合った喜田くんは、クリスマスプレゼントに広辞苑をくれるよう男の子だった。付き合いはじめてから交友関係やスケジュール、服装やメイクにまで口出しされ、自分を見失いかけたときに知り合ったのはおおらかで優しい先輩・陽太だった。
男は死ぬために海に来た。その海岸で砂を掘り続ける謎のおっちゃんを見つける。おっちゃんの行為が気になる男は、死ぬ前にその行為の意味を知りたくて、おっちゃんに問いただす。そこに白いコートの女が現れ…
私は産婦人科の入院室のベッドに寝ている。看護師が現れ、生まれたばかりの赤ん坊を私のそばに置いて立ち去る。私は自分の赤ん坊に愛情が感じられないが、それを見透かしたかのように赤ん坊が喋り出す。「俺を愛おしいと感じないだろう。当たり前だがね」。私は戸惑い、ナースコールのボタンを押すが…。
「先生。僕って、認めてもらう立場、なのかな」高校2年生の「僕」は、ひとつの葛藤を胸に生きている。ある日出会ったスクールカウンセラーの「先生」と二人で過ごす時間は、僕にとってとても心地よかった。しかし一年経ち、先生はこの学校を去る。先生と僕だけの、二人だけの退任式が始まる。
少年は夢の中で、空っぽのベッドの前で俯いていた。とても大切なものによってもたらされた、大きな不幸のせいだった。そこへ、青年が現れる。「やはり、まだここにいらっしゃったのですね。先生、私です。山本です」
高校生の時の担任教師の告別式の知らせを聞いたフジミヤは、当時クラスメートのアイザワを思い出す。「嬉しい」が口癖の人気者のアイザワ。10年前、フジミヤとアイザワはある出来事以来会っていなかったが、フジミヤはアイザワに会いに行こうと決めた。