『穂に出いで』
斉藤高谷
(『狐女房』(石川県))
ある晩、突然二人に増えた妻。どちらが本物かという選択を僕らの父は間違えた。そうして生まれた僕らは、ひょんなことから母の正体を知ってしまう。母は狐だったのだ。
『大晦日の休日』
田中竜也
(『笠地蔵』)
昔々あるところに村一番の長者がいた。用事で出かけた町からの帰り道、長者は見たこともない男の子に、「大晦日を怠けたい」と言われる。その日は大晦日であった。よく意味が分からないまま長者はそれを許し、何か食べさせようと男の子を自分の家へ連れて帰ると、家で思いがけないことが起こっていた。
『タニシの義姉』
日下雪
(『タニシ長者』(岩手県))
妹に、初めての彼氏ができた。が、紹介されたのはなんとタニシ。シスコンの姉として納得できない「私」は言った。「今度、そのタニシを、うちへ連れてきなさい。」約束通り我が家を訪れるタニシくんを待ち受ける姉には、胸に秘めた一つの「作戦」があった……。
『なんで?』
真銅ひろし
(『桃太郎』(岡山県))
主任の美智子先生が「桃太郎」を「桃姫」に変えたいと言い出した。呆気にとられる職員。しかし私が余計な事を言ってしまい、次回の会議までにお供の動物と物語の内容を考えて来ることになってしまった。
『梅津忠兵衛の呪い』
小柳優斗
(『梅津忠兵衛の話』(出羽国平鹿郡横手町))
梅津忠兵衛という侍は、氏神から剛力を授けられた。その力は代々受け継がれたが、僕の時代には重荷になっていて、失くしてほしいと氏神に訴える。日常生活に支障をきたしている僕に対し氏神は、真の強さで世の中を変えるよう諭す。しかしそれにだってフィジカルな強さは要らないだろうと、僕は思った。
『スサノウの夏』
添谷泰一
(『古事記の八俣の大蛇』(島根県))
島根県の高校の郷土芸能部。毎年、「古事記による八俣の大蛇」を上演していた。部員の減少で、公演が危うくなる。部長の雪乃は、手を尽くすが集まらない。幼馴染の能人を誘うが断られる。一方、キャストの一人、姫香がいじめにあって学校に来られなくなっていた。能人は姫香のいじめに関係していた。
『雨が降ればきっと』
岩瀨朝香
(『滝宮の念仏踊り』(香川県))
水不足による断水で、高校では各クラスに給水当番が必要になった。揉めるのが嫌で、つい一人でやると言ってしまった私は、そのことを後悔しながらも、ただ、雨が降るのを待つことしかできない。雨が降れば、きっと変わる。……でも、もしかしたら、雨が降っても私は、なにも変われないのかもしれない。
『ゴースト・シークレット』
月照円陽
(『葬られたる秘密』(京都))
若くして亡くなった美園は、幽霊となって毎晩自分の部屋を訪れる。家族は物に未練があるのだろうと思い、美園の持ち物を寺に納める。しかし、幽霊は現れ続ける。相談を受けた寺の和尚が部屋に張り込み、美園の未練があった品を見つけだす。それは、1TBのmicrosdカードだった。中に入っていたのは……。