『鬼さんこちら』
太田純平
(『福は外、鬼は内』(山形県))
今年も節分がやってきた。パパとママと一緒に娘のチヨが豆を食べていると、外から「鬼は~外、福は~内」という声が聞こえてきた。窓を開けて外を見ると、鬼の恰好をした人が子供たちに追い掛けられながら豆をぶつけられている。それを見たチヨは空に向かって叫んだ。「鬼は~内! 福は~外!」
『怠け神』
小山ラム子
(『怠け神』(山梨県))
仕事を辞め、家でダラダラとしていた俺の前に、痩せっぽっちの男が現れる。その男は、「家主が怠けるほど肥えていく」という怠け神だった。最初は豆粒みたいに小さかった怠け神はどんどん太っていき、いつの間にか俺の部屋の半分を占有するほどになってしまった。
『花田の桜』
立田かなこ
(『花咲かじいさん』)
妻を亡くしたのをきっかけに、飼い犬ペロと実家に帰ってきた老人・花田。ずっと誰もおらず、老朽化した家には、1本の大きな桜があった。しかし、その桜は、数年前から咲かないという。生前、妻が「綺麗ね」と桜を褒めたのを思い出した花田。ペロの激励もあり、桜を蘇らせようと奮闘する話。
『飯縄山は一九一七(ひくいな)』
瀬木哲
(『だいだらぼっち伝説』(長野県長野市))
信濃の国善光寺平に高く大きくそびえる飯縄山。広く世間を見ることができるのは自分のみとうぬぼれ、仲間の戸隠山、黒姫山を顧みない。国中を巡る巨人ダイダラボッチとやり合うなかで宇宙を知り、自分は善光寺平を守れればそれで十分と悟り、ダイダラボッチに自らの背を低くしてくれるよう頼む。
『流れる』
白川慎二
(『舌切り雀』)
大きなつづらの中から出て来た毒虫に腰を抜かしたおばあさん。動けなくなったおばあさんをおじいさんが迎えに来て、二人はそこで一夜を明かすことにした。二人の口から語られる、これまでのこととこれからのこと。
『ウラシマ』
五条紀夫
(『浦島太郎』)
十五年以上前に失踪した人が、当時の姿のまま帰ってくるという現象が頻発していた。その帰還者たちを、世間はウラシマと呼んだ。ウラシマが現れると、ウラシマもろとも、多くの人々が消滅する。真相を究明しようとする警察は、失踪した父を持つ亜矢子に、捜査協力を要請することにした。
『腫瘤』
加持稜誠
(『こぶとりじいさん』(岩手県))
夢のマイホームを購入した一哉と加奈子。しかし隣には近所で噂の変わり者、菅生が住んでいた。スーパーで引いた福引がきっかけで、菅生と関りを持つようになり、その老害然とした奇行に翻弄される一哉。そして、その矛先は……
『岩が落ちたら』
Tsukishita
(『鯖くさらかし岩』(長崎県時津町))
関東の市場で働いていた主人公・林。仕事でろくに結果を残せず、地元長崎にある子会社へ出向となる。そこで地元の町にある「鯖くさらかし岩」という巨大岩の前で同級生・ヒデコと再会し、子供のころの不思議な体験を二人で振り返る。
『雨に消えた子』
山崎ゆのひ
(『あめふり(童謡)』)
マモルの母は心配性。雨の降る日は喘息の持病のあるマモルのために、傘を持って小学校まで迎えに来てくれる。しかし、小学4年生になったマモルは、そんな母を疎ましく感じるようになっていた。ある雨の日、マモルは柳の下で濡れていた子を傘に入れてやるが、その子は……。