『こころむすび』
ヤマベヒロミ
(『おむすびころりん』)
2ヶ月前に妻を亡くし、それまでの日常から抜け出せずにいる。30年間、妻が毎日作り続けてくれた弁当には、いつも大振りのおむすびが2つ入っていた。二度と口にすることのできない、妻のおむすび。深い悲しみから一歩踏み出すきっかけもまた、おむすびだった。
『まち針心中』
犬浦香魚子
(『蛇婿入り』)
青大将の真子は、人間に恋をした。昔同じような恋をして針で刺された白蛇様に相談するが、あやまちだと諭されてしまう。幼馴染の武蔵丸も真子の恋に反対する。二匹は喧嘩しながら人間の元へゆくが、彼にはもう恋人がいるのだった。翌朝、真子は武蔵丸を振り切って、まち針を片手に想いを告げにゆく。
『水仙』
風乃絹
(『松山鏡伝説』(新潟県))
母親を亡くした京子は、形見の鏡を大事にして毎日を過ごしていた。冷たい継母の態度がつらくても、鏡をのぞき込めば母に会えるから頑張れた。ある日、継母の言葉に傷ついた京子は家を飛び出してしまう。そこで鏡の裏に彫られたものとそっくりな、紅い水仙を見つけるのだった。
『花子さんがいた頃』
いずさや
(『トイレの花子さん』)
小さなイベント会社で働く八重島は、幼い頃から辛い気持ちになるとトイレに逃げ込んで、空想の「花子さん」と話していた。しかし、社会人になってから、上手く「花子さん」を想像することができない。
『羽衣とあけび』
折本識
(『羽衣伝説』(山陰地方))
柴刈りをして生活していた達吉という男は、ある日天より舞い降りた美しい女人と出会う。女人を妻に迎えた達吉は幸せな生活を送っていたが、それを快く思わない存在がいた。
『橋の上、真ん中あたり』
室市雅則
(『橋立小女郎』(京都府))
警備員の男。四条大橋のたもとで夜間下水工事が行われるため、歩行者誘導の仕事が入った。休憩時、橋の上の真ん中あたりに一人の女性が立っている事に気が付いて…
『ふたり虹を渡った』
もりまりこ
(『おむすびころりん』(東北))
わたしはギリと呼ばれてる。稼業がおにぎり屋さんなのでギリと呼ばれてる。
おにぎり屋さんだというのに、わたしはいつからかご飯を誰かと食べられなくなっていた。誰かの視線を感じながらおにぎりをたべることがこわい。
『巳吉のわらじ』
後藤幹雄
(『ごんぎつね』(愛知県))
浮谷村のはずれでおっ母と暮らす巳吉。生きるために作り続けるわらじを通して、村人たちとの日々の様子を素朴に描きます。
『電車』
久遠さくら
(『蜜柑』)
残業終わりで乗る帰りの電車。音楽が好きであるが、医者から控えるように忠告され、退屈な時間を過ごす。老人にストレスが高まる。その後、安逸な時間を過ごせたが、着信音が響いた。苛立ちも限界だが、嬉しそうに語る「妊娠」という言葉に魅了される。家に着いた時、私は退屈しなかったことに気づく。