小説

『ふたり虹を渡った』もりまりこ(『おむすびころりん』(東北))

わたしはギリと呼ばれてる。
稼業がおにぎり屋さんなのでギリと呼ばれてる。
おにぎり屋さんだというのに、わたしはいつからか
ご飯を誰かと食べられなくなっていた。
誰かの視線を感じながらおにぎりをたべることがこわい。

ギリって変な子だって言われているのも知っていた。
ひとりでごはんを食べていた時のこと。

母のこしらえたおにぎりが転がった。
あの民話のようにころがった。
ころがるものを追いかけようとしていたらわたしは
雨上がりの虹をみたような気がした。

シャボン玉にかすかに映るささやかな虹をいつまでも
見ていたら、その透明で七色に光るしゃぼんの中に
すっぽり入っていた。
いつの間にか入っていたのだ。
木々のみどりや家並みや知っていたはずの空の雲も
ここからみえる風景はあたらしく、あたらしいことは
いつもどぎまぎさせるけれどいつまでも見ていたい
眺めだった。
不思議な気持に包まれながら身を任せていると、その
しゃぼんの中でひとりの子に出会った。
ひとりのこ。
おとこのことかおんなのことか、そういうふうに
ジャンルで分けたくない感じの雰囲気。
その子は、わたしに言う。
「たとえば、きみの見ているその虹をいちど潜って
しまったらきみはぼくになるはずなんだけど。

きみはどうする? くぐりたいどうしたい?」
そのこは腕を組んで、いたづらしてるような、顔で
質問を投げかけてきた。
わからない時、わたしはひっそりと黙ってしまう。
すると、そのこはすかさず聞いてきた。

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