『だからだめなんだ』
常世田美穂
(『ダスゲマイネ』)
大学生の佐野のはじめて恋をした女の子は風俗嬢だった。頻繁に通えないためバーでよく似た女の子を代わりにその子を眺めていた。恋ってなんなんだと嘆く日々に終わりは来るのか。友人の宮地と酒を酌み交わしながら、佐野が出した答えは……
『テロテロ坊主ゲロ坊主』
ヰ尺青十
(『オイデプス』『人、酒に酔ひたる販婦の所行を見る語:今昔物語集巻三十一第三十二』『太刀帯の陣に魚を売る媼の語:同巻三十一第三十一』)
味噌汁にゲロを混ぜて出食するかのようなバイトテロ動画がSNSで大炎上した。国会で追及された大臣は〈総合的且つ根本的調査対応〉を確約して省庁に命じるが、適任の担当部署が決まらない。結局、労働局相談員の雉野又次郎に白羽の矢が立って、事件は解明されたかに見えたが、闇は更に深かった。
『をと』
鴨カモメ
(『浦島太郎』)
98歳になる次郎の祖母『をと』が亡くなった。次郎は妻と息子を連れて祖母に最後のお別れをしに行く。すると祖母は家族に玉手箱を遺していた。家族が見守る中、玉手箱は開けられた。玉手箱に入っていたものは……。
『デンデンムシ』
長月竜胆
(『デンデンムシノカナシミ』)
――悲しみは誰でも持っているのだ。私ばかりではないのだ。私は私の悲しみを背負っていかなければならない。そんなデンデンムシが出会ったのは、殻を持たない不思議なデンデンムシでした。
『ドーナツの穴から食べる』
香久山ゆみ
(『青い鳥』)
幸せとはなんでしょう。私はまるでドーナツの穴です。社会という輪の中に入ることができず、ぽかりとはみ出した存在。かといって、ドーナツの壁を越えることもできない、閉じた存在。そんな私には幸福を得るなんて大それたことです。夢のまた夢。ただ呼吸をすることで精一杯なのですが。
『一寸法師、見参』
柿ノ木コジロー
(『一寸法師』)
両親に死なれ、飼い猫にも見放され、会社でもうだつの上がらないひとり者の山辺は、ある雨の日にひとり風呂に入っている。もうこのまま、人生もお終いにしようか……そんな時に突如、彼はとんでもない災難に襲われて、そして。
『駆け込みパッション』
もりまりこ
(『駆け込み訴え』)
<春分の日のあとの最初の満月の次の日曜日>それっていったいいつやねん。だからそれは今日。春の海にいたいえっちゃんは、こぎれいな青年のサーフボードにぶつかって、じぶんが復活したことを知る。そんな遅れてきたいえっちゃんは湯田のことを思い出しながらゴルゴタの丘を目指して歩きはじめた。
『夜間清掃』
日根野通
(『シンデレラ』)
離婚により心身共に疲れ切った中年女の「私」は就職活動にも身が入らず、清掃のパートで食いつなぐ毎日。そんなある日新しい現場であるデパートで靴に導かれて鏡の世界に足を踏み入れる。現実の世界を映す虚構を経て「私」は本当に大切な物に気がつく。