『壜のなかの2匹』
もりまりこ
なにかを束ねることばかりしている。オフィスではひとりになりたいことがよくあった。ふと視線を感じた先に夏島がいた。彼は、いつでもいいからといったあの夜の返事を待っている。冬美はささやかな日常の中でかつてともに暮らしていた祖父のことを思い出しながら、夏島への答えを探しあぐねていた。
『カタノハネ』
大澤匡平
四年前、妻の不注意で亡くなった息子の光太。自分を責め続けている妻の千鶴が1時間だけの児童誘拐を提案する。そして、家族から夫婦に戻っていた男女が僅かな時だけ家族に還る。
『イヤミのシェー』
司真
子供のころ借金を作って蒸発し、その後死んだ父親に、憎しみしかい抱いていなかった今井隆文は、苦労して自分と妹を育てた母親も同じ気持ちだろうと思っていたが、母が父の墓を参っているという話を聞き、母の胸中にはどんな思いがあったのか記憶をたどる。
『魔法の粉』
相内亜美
語り手である「私」は、結婚して五年。子どもが産まれ、余裕がなくなり、夫と些細なことで衝突することが増えてきた。しかし、ある出来事がきっかけとなり、夫、そして家族の在り方を見つめ直すことに。
『百円で買えるもの』
ノリ・ケンゾウ
百円で買えるもの。ペットボトルのお水。ポテトチップスのうすしお味。ライター。おでんの玉子。消しゴムも、定規も、筆箱もみんな、百円。あとそれから、私のお兄ちゃん。私のお兄ちゃんも百円。ちょっと安いよね、お兄ちゃん。もう少し高くたっていいと思う。
『もう一度家族になろう』
川村文人
正之は、単身赴任を始めて十年目だ。赴任当初は毎月帰省していたが、最近は殆ど帰らず、家族との会話も少ない。久しぶりに帰省した帰り道、正之は車の運転中に脳出血で倒れる。なかなか意識が戻らない正之のために、子供たちが毎日、正之の耳元で童話を読み始める。一か月後正之は奇跡的に目覚めた。
『葦刈の恋』
山下信久
結婚式を間近に控えた秋の日、母は高子に実父の話を始める。大学時代、二人は「葦苅説話」の講義で出会い、母は高子を宿して結婚した。やがて夫婦は別れ、再婚した夫の仕事が軌道に乗った頃、母は変わり果てた元夫の姿を見る。彼女は当たりくじを送るが、礼状には説話にある和歌が添えられていた。
『あの香り』
多田正太郎
「香水?」「そう、香水さ」「ガキの頃から、この香り、いやガキの頃はさ、匂いって感じかなぁ」「香りと匂いって、違うか?」「まぁ、香りって表現は、よ、大人びた感じだし、ガキはそんな表現しない、べさ」「ははは、そうだよなぁ」「だべ」。香り。これと様々な思いとは、切り離せないのかもしれない。
『ぼくの妹』
鑑佑樹
小学校三年生の司は、家に帰るといつも一人ぼっち。ローンで家を買った両親は共働きをしており、引っ越したばかりで友達もいない。司のママは心配で、パパに相談をする。そこで司のパパが出した提案とは……