9月期優秀作品
『カタノハネ』大澤匡平
人差し指をくいっと曲げて、頭の両横につけてはトナカイだなんて。
クリスマス間近のおもちゃ屋は、暖房と高い声があいまった流れを作っては、悪気もなく外に漏らし続ける。幸福と呼ばれるやつを。
僕と千鶴は、それを吸う資格を失って早四年。近頃は吐くだけ。
手に隠れるくらいの小さな手が繋がれて、お父さんは疲れながらも愉快に笑って、お母さんは夕方に受け取るチキンの時間を気にして、そんな家族が隠れた手に引っ張られている。
四年前。光太と同時に家族という肩書きも失った僕らは、哀れな夫婦になった。
可哀想で惨めな2人は隠すものがないのに涼しげな手で店を彷徨う。
これから買うであろう、もしくは買えずに泣くであろうゲーム機の体験コーナーに群がる幼羊たち。
その後ろに違和感なく立った千鶴は口元だけ笑った拍子に、うちの子にしちゃおっか、一時間だけでも。と久しぶりに声をだした。
不謹慎な言葉に説教をしてやろうと、ほとんど同じくらいの手を引っ張ってスーパーの休憩所までの間に考えたこと。君に、いったい何を言えば良いのか。
夏風邪をひいた光太を車に残して千鶴は、薬局でオブラートと思いつきの葡萄ゼリーを1つずつ。
食の細い光太。体調を崩せば細さは極められ、初子を持つ親の不安を煽っては、最近になって葡萄ゼリーという抜け道を教えた。
そんな不幸にも満たない不満を通りすがりのママ友に話し終えて車に戻ると、光太は。
答えも見つけずに、たどり着いてしまった休憩所で、僕は開けた口を閉じた。
1滴の涙だけを流している千鶴。彼女は、さみしいね。それだけ言って何故だか笑いかけてくる。
千鶴が、光太のそれ以来、車の運転をすることも、友だちに会うことも、光太の名前を出すことさえも無くなった。増えたのは、自分を責めること。
熱く暑かった光太を思っては、同じ状況の車に座ってみたり、熱湯を腕にかけたり、ビニール袋をかぶって息を細めたりしては、一人で泣いていた。
高校時代に出会った千鶴は、弓道にのめり込んで短く綺麗な髪から石けんの香りをさせて、永遠に当たらぬ僕らの的だった。