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『カタノハネ』大澤匡平


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 何かの間違いで、僕と付き合って、結婚をして、光太が産まれて、それから3人に。笑顔のツボは浅くなり、光太を前にして表情はゆるむばかりで。今日が楽しみな昨日を繰り返していたのに。僕らは、何かの間違いで昔のように2人になった。
 中途半端に伸びた千鶴の髪は、昔の見る影も無くほつれている。何もしてこなかった僕は、いつも通りの無責任に任せて、そうしよっか、一時間だけならね。だなんて解決もしない答えを提出する。

 親から離れた子どもは、その場かぎりのこれっぽちの世界を創る。
 順番を指図する体の大きいもの、回ってこないのを知って後ろに立つ誰かの弟、数回したゲームのコツを話す一人っ子、それを遠くから羨ましがる彼。
 その時、頭の中で光太の撫で肩と彼のが重なった。
 3歳の子どもの割には、浮かれないというか冷めてるというか単純に言えば暗い。千鶴の真反対を向いている光太の性格に親しみがあり、千鶴はそれを可愛いと済ませた。友だちが群がるものには足を止めて、遠くからじっと見ているだけで。行けば?なんて邪道な言葉をかけても首をふるだけ。それも千鶴は可愛いと。家では、鉄道の本ばかり見ては滑稽に小笑っていたことも。
 そんな光太を、あなたにそっくりだから可愛いの、と彼女は恥ずかしげもなく目の奥を見つめた。

 気づけば、おもちゃ屋は背中もはるか遠く、手には固く小さな手。存在自体を隠すように大人2人で挟んだ。不思議と、車に着く頃には筋肉はほぐれて諦めを感じさせた。
 後部座席に座る彼はソウタというらしい。偶然の響きに驚くも千鶴は表情を変えていなかった。リュックに書いてあったでしょ?だから、と養殖物の奇跡だと知る。
 どこに行きたい?なんて誘拐犯の常套文句にもソウタは首をふるだけ。
 近くの大型おもちゃ屋が響かず、秒針はペースを変えず。この車といったら行き先もなく無駄遣いをするばかり。
 ハンドルを握り、千鶴は手を握る。消していた過去に自分を進ませ、光太の躍る姿を探す。
 車が止まったのは、走り去る電車を見るしか手段のない高台。
 思考ではなく記憶が導いた場所に、ソウタは手すりを強く握って前へ上へ。
 息荒らした先には、少し背伸びをするソウタの背と資格を失った僕ら。
 千鶴が、光ちゃんも好きだったね。と目を合わせないよう呟く。
 四年ぶりに聞いた、妻からの息子の名に悪い気はなく懐かしさに鼻が痛くなる。光太も、この高台によく来ては興味の無い私たちに電車の型を享受した。

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