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『壜のなかの2匹』もりまりこ


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9月期優秀作品

『壜のなかの2匹』もりまりこ

 
 ちいさな紙の束をたばねる。はじっこをできるだけ合わせて、ばらばらにならないようにカキントやる。
 紙がすこし分厚いときの、あの指にかかるかすかな圧力の中にはみえないぐらいの罪悪感が潜んでいる気がする。

 ゆめを束ねて置き去りにすると、いつまでも記憶の中に収納されて、なくなってくれないような。
 待っているからすべてのものがやってくる訳じゃないことを知りながら、待つことをチャンと忘れようとしてるときに限って、待っていることに支配されていることに気づいたときみたいに。

 いま、あたまのなかにある図がほんとうなら小気味いいのになって思って、それをせせらぎの中に捨ててしまうことを想像していたら、富樫先輩に目線だけで叱られた。
 会議まで間に合うの? ってことなんだろう。たまにこういう切羽詰まった状況に陥ると、間に合わなきゃ間に合わないでどうだっていうのって気持ちに駆られる。いつか、たぶん会社を辞める前ぐらいにはそれを実行してしまうかもしれないことを思い描きながら手を動かす。

 名前も知らないきれいな蛾が、スツールの上の何を入れていたんだか忘れてしまった磨りガラスの壜の内側で休んでいることを発見した。♂か♀かわからないけれど、休んでいるその蛾のまわりをくるくると白地にかすかなグレー模様のおなじ種の蛾が回っている。
 そっとしておく。音を立てないように。いないふりをしながら、はじめからいなかったもののようにふるまいながら。

 会議室の机の上に資料をセッティングし終わると、富樫先輩はすごくとんがった表情で化粧直しのためにドレッシングルームへと急いだ。
 失敗はゆるされないのよって顔で、プレゼンに臨もうとしているいつもの顔だ。

 バカみたいにステープラーを握っていたせいか、親指と人差し指が炎症をおこしたみたいに熱を持っている。
 会社の資料室でふるい雑誌のページをめくっていたら日本最古かもしれない明治半ばから末ぐらいのホッチキスの写真が載っていた。
 むかしはU字型の金属の針に紐穴がついていてその針をパンチ部にセットして紙を綴じていたらしい。
 この商品を紹介していた推薦者の人は今は便利に進化されたものにも、始まりというものがあると言っていた。現在は博物館に勤めていてその前は企業のエンジニアだったらしい。
 束ねることが仕事だった道具のはじまりを想う。
 その頃暮らしていた人たちは、何を束ねていたのだろうか。

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