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『壜のなかの2匹』もりまりこ


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 たとえば紙をカキンとやるとき、どんな音がしたんだろう。と、その黒く塊のパーツをもつごつごつとした写真をみながら、私は日々束ねることしかしてないような気になって、溜め息が出た。
 その溜め息の音が届いたはずもないのに、夏島がこっちを見て目線だけで、微笑んだ。溜め息がそのまま彼の顔を掠めたみたいで、なんとなくばつが悪くて、私はすごく不器用に笑った。

 夏島は返事を待っているのだ。いつでもいいからさって言ったけど。いつでもいいはずはなくて、たぶんここ数日中というのが彼の目算だろう。
 ふたたびカキンとやる。なにもなかったところに傷がついたみたいで、微量の罪の意識がよぎる。
 ものを束ねるときの、心地よさとは裏腹にきっと人には束ねられたくないんだなと、オフィスのあちこちを見回してみる。

 昼休みは誰よりも早くオフィスを出る。ひとりになってどこかニュートラルにならないと、仕事モードに切り替われないせいだ。
 商店街を歩く。なにげなく耳に入ってきたことばが、耳の中をよぎって、みぞおちのどこかしらに着地する。
 むかし、短い間付き合った金井という男に、ものの気配を耳のうしろでキャッチするんですよと言われたことがあったような気がして。いっしょにその言葉まで吹き抜けてゆく。金井はすこし年上の男で得意先で営業をしていた。別れるときは信じられないほどの口喧嘩で終わった。
 出張で来ていた潮風がやたら吹いていた港町の繁華街で喧嘩した。凄まじい口喧嘩をするぐらいだったら、いっそのこと取っ組み合いでもして別れた方がもやもやせずに済んだのにと思うこともあったなって、今となるとすこしだけおかしくなった。
 あの時のふたりの喧嘩すごかったねっ。何に怒っていたんだろうねって今なら笑える気がするのは、たぶん私の方だけだろう。

 1週間ほど前、夏島と仕事帰りに飲みに誘われた。なんとなく付き合ってる感じはしていたけれど。その境界線がよく掴めない。
 生い立ちの話は誰とでも苦手なはずなのに、その時はなんの拍子か口が滑ったのだ。
 鬼畜みたいな父親に育って、その父親と死別してから母方の祖父に育てられたことをふらりと立ち寄った店で思わず夏島に口走ってしまった夜、すこしそのことを悔やんでいた。

 じじつはじじつだけれど。そんなことは、墓場まで持って行けばいいことだと思っていたのに。思っていたより、じぶんの口の軽さに驚いた。

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