メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『あの香り』多田正太郎


  • 応募要項
  • 応募規定

9月期優秀作品

『あの香り』多田正太郎

 
「香水?」
「そう、香水さ」
「ガキの頃から、この香り、いやガキの頃はさ、匂いって感じかなぁ」
「香りと匂いって、違うか?」
「まぁ、香りって表現は、よ、大人びた感じだし、ガキはそんな表現しない、べさ」
「ははは、そうだよなぁ」
「だべ」

久ぶりに、飲む酒は、美味かった。
ホンワリと、酔いが心地よく回ってくると、先ほどまでの、寡黙会のような雰囲気は消え、地元言葉が飛び出すころには、すっかり違和感はなくなっていた。違和感? 今こうして拘りなく飲んでいる、伊藤とは、10年以上の間、確りとある拘りが消えることなく、違和感というよりか、嫌悪に近い感情を抱き続けていたのだ。

「お前よ、いつもこの香水の香りしてたべ」
「・・・そうかぁ、・・・それがなぁ」
「ああ、容姿もあったけどよ、その香りが、子共には不気味というのか、異国感じさせてよ、刺激していたのよ」
「そうかぁ」
「でも、分かったんだ、あの日」
「あの日?」
「ああ」
「おまえん、とこの、じいちゃん」
「じいちゃん、が?」
「お前の母さんの香り、だつてよ」
「・・・じいちゃんが、・・」
「ああ」
「そして、ガキどもの鼻に、よ、チョコンと、その香水つけてよ」
「香水を、か?」
「ああ、いい匂い」
「そうかぁ」
「俺のとこの、健太には、大切な匂いだ」
「そう、ボソリと言ってな、あとはなんにも言わないで、行ってしまった」
「そうかぁ、そんなことがなぁ」
「ああ、あったのさ」
「急に、いじめが、なくなったから、不思議に思っていた」
「そうかぁ」
「あの匂い、いや香りがなぁ」
「ああ」
「じいちゃん・・、そうかぁ」

とても不思議だった。使っても、使っても、なくならない香水。母親の匂いの香水。じいちゃん、ドイツから、取り寄せていた。そのことは、ずーっと、後に分かったことだが。
気付かぬように、さりげなく、補充していたこともだ。

香り・・。珈琲の香りが漂っている。力が漲ってくるような、匂い。珈琲って、不思議だ。

1/7
次のページ

9月期優秀作品一覧
HOME


■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 アース製薬株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー