小説

『蜜柑伯父さん』吉岡幸一(『こぶとりじいさん』)

 すぐに伯父さんの蜜柑は評判になりました。貰ってくれる相手を探す苦労などいりませんでした。伯父さんの蜜柑は配られるとすぐに無くなりました。
 評判が評判を呼び、わざわざ遠方から来る人も現われてきましたが、早い時間に無くなっていることも多く、その度に伯父さんは申し訳なさそうに頭を下げていました。
 頬に蜜柑が生る数は一日に十六個でした。両頬に二個生るのに約二時間、なぜか寝ている時間は蜜柑が生りませんでしたので、伯父さんの睡眠時間八時間を除くと、その数しか作れないのでした。
「もっと蜜柑をください」
 なんど言われたことでしょう。人に喜ばれたいと思っている伯父さんは無下に断ることができませんでした。できることといえば一つしかありません。睡眠時間を減らして配れる蜜柑を増やすことです。
 増やしたといっても八個が限界でした。一睡もしないで増やした数です。全部で二十四個です。それ以上は努力しようがありませんでしたし、毎日毎日、一睡もしないということは不可能です。人間なのですから、どうしても寝てしまいます。
「もっと配ってくれたらいいのに」
 欲張りな人は言いました。
 伯父さんは睡眠時間を減らすほかに、ビタミン剤を飲んだり、頬のマッサージをしたりしましたが効果はありませんでした。
 無料で配っているにもかかわらず、文句を言う人はいるものです。しかし喜ぶ人のほうが遙かに多かったので、伯父さんは人の役に立っている実感が持てて幸せそうでした。
 蜜柑配りは多くの人に喜ばれていたのですが、ついに秘密がばれる時がきました。蜜柑の木から生った蜜柑ではなく、伯父さんの頬肉が膨らんで生った蜜柑だとバレてしまったのです。

 

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