小説

『蜜柑伯父さん』吉岡幸一(『こぶとりじいさん』)

 どこかで噂を聞いたのでしょう。伯父さんの秘密がバレてから様々なことがありました。
 保険所が突然やって来て伯父さんの蜜柑を持って帰りました。が、その後特に何も言ってきませんでしたので、検査しても何も問題がなかったのでしょう。
 また家に地方新聞の記者が尋ねてきて、伯父さんのことをあれこれ聞いてきたりしました。もちろん適当に誤魔化して帰ってもらいました。
 その他にも、玄関のドアに「怪物は街から出ていけ」と紙を貼られたり、石を投げられて窓ガラスを割られたり、学校帰りの子供たちが家に訪ねてきて、伯父さんの頬に生った蜜柑を見せてくれとせがんできたり、植物学者が研究したいと手紙を送ってきたりしました。
 毎日毎日、なにかしらのことがありましたが、私たち家族は伯父さんの気持ちを尊重して、それらの全てを拒絶しました。
 蜜柑配りはいつの間にか伯父さんの生きがいになっていたのでしょう。あの後から数日後には部屋から出てきましたが、生きがいを失くした伯父さんはしょんぼりとしていました。一日テレビばかりをぼんやりと見ているだけの生活になりました。

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