小説

『蜜柑伯父さん』吉岡幸一(『こぶとりじいさん』)

 政治家のお婆さんだけでなく、他の蜜柑を食べた人もつぎつぎに蜜柑を食べて病が治ったと言い始めました。実際効果があったようで、詐欺師呼ばわりをするような人は一人も現われませんでした。
 人の役に立ったという自信と、もっと助けて役に立ちたいという想いからでしょうか。この頃から、伯父さんは急に頬に大量に蜜柑を生らせるようになったのです。以前は二時間に二個でしたが、時間に関係なく、もぎ取ればその瞬間に次の蜜柑ができるようになりました。際限などありませんでした。
 伯父さんは蜜柑を欲しがる人に蜜柑を渡しました。家の前には数キロにも及ぶ行列が毎日できるようになりましたが、その全ての人に渡すことができました。
 もう睡眠時間を削って蜜柑の数を増やす必要もなくなりましたし、怪物などと言う人もいなくなりました。
 伯父さんは皆に必要とされ敬われる存在になったのです。伯父さんの蜜柑がすべての人の病に効果があったからです。神という人もいたくらいです。
 十年後、伯父さんは人々から惜しまれつつ亡くなりました。伯父さんは、伯父さんが望んだように「多くの人を助け、人の役に立ち、人に喜ばれる」人生を送ることができたのでした。

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