小説

『蜜柑伯父さん』吉岡幸一(『こぶとりじいさん』)

 我が家は蜜柑に困ることがありませんでした。それは家が蜜柑農家をしているといった理由ではありません。農家ではありませんし、庭に蜜柑の木も植えていません。大量に購入しているわけでもありません。
 我が家で居候をしている伯父さんのおかげで、蜜柑に不自由することのない生活が送れていたのです。
 蜜柑なんて食べなくても平気という人も大勢いるでしょうが、私も父も母も蜜柑は好きでしたし、季節に関係なく新鮮で甘い蜜柑を食べられるのを喜んでいました。
 ただ原因である伯父さんは持て余しているようで、増えていく蜜柑を眺めてはよく溜息をついていました。
 これを病気と云えばいいのでしょうか。それとも奇跡と呼べばいいのでしょうか。伯父さんは不安から検査をしてもらいませんでしたので、病気かどうかはわかりませんでしたが、頬に蜜柑が生るほかは健康で身体に異常はありませんでした。
 ええ、伯父さんの頬には蜜柑が生るのです。蜜柑色の頬という比喩ではありません。本当の蜜柑が頬に実として実るのです。蜜柑の木から蜜柑の実が生るように、伯父さんの頬から蜜柑の実が育っていくのです。
 右と左の両方の頬に蜜柑は生りました。頬に成った蜜柑は引っ張れば簡単に取れました。ただ蜜柑を取ってしまうと、次に蜜柑の実が生るまで二日かかりました。

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