小説

『蜜柑伯父さん』吉岡幸一(『こぶとりじいさん』)

 お婆さんはとても喜んで蜜柑を持って帰りました。
 後で伯父さんに理由を尋ねると「人助けは良いことだから」と照れながら答えました。内気で引きこもりがちな伯父さんではありましたが、根は人一倍優しいのでした。
 人の噂も七十五日と云います。伯父さんの噂も徐々になくなり、やがてすっかり忘れられるだろうと思っていたのですが、むしろそれは逆でした。
 孫のために蜜柑をもらいに来たお婆さんが日本中に伯父さんのことを広めたからです。私も伯父さんも知らなかったのですが、お婆さんは大臣も務めたことのある大物政治家だったのです。
 蜜柑を食べた効果なのかどうかはわかりませんが、お孫さんの病気は蜜柑を食べることで完治したそうです。そのことを本に書き、テレビでも熱心に話したようなのです。
 まさにあっという間に伯父さんは日本中に知られるようになりました。国中から伯父さんの蜜柑を求めて人が殺到したのは言うまでもありません。幸い力のある政治家の後ろ盾を得たせいか、警備員が国から派遣されましたので、我が家の平安も伯父さんの身も守ることができました。

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