ジリリリリ、ベルが鳴った。布団を蹴り上げ上体を起こし、3回手ぐしで髪をとかすと、よいさっ、と足をカーペットに下ろし、冬の朝の冷たさを体感する。ジリリリリ、けたたましいこの音は、私の頭蓋骨の中で響いて逃げまどっているかのよう。ジリリリリ、壁に張り付いた起床を知らせるボタンを押す。ジリリリリ、まだベルは止まらない。スピーカーからうるさく垂れ流されている。鏡を覗くとニキビが一つ顎にできていた。ジリリリリ、顔を洗って薬をニキビに塗りつける。ついでに髪をまとめておこう。ジリリリリ、まだベルは止まらない。はア、さては誰か寝坊をしているな。ジリリリリ、隣の田中か?ジリリリリ、遅刻常習犯の内山か?ジリリリリ、ジ。おや、先ほどまで泣き叫んでいたベルはぷつりと途絶えた。棟の全員が起きたんだな。入れ替わりにいつもの音声が流れる。
「アパートメント225の皆様、おはようございます!今日は皆様が起きるのに8分もかかりました。さあ、遅刻しないよう急いで身支度しましょう!」
マナー講師のように張り上げた明るい女声は、不機嫌な朝には鬱陶しい。うんざりしながら、ポストを覗くと、ピザトーストが1枚ラップに包まれて寂しそうに入っていた。いつも通りの朝食だ。紅茶を淹れ、トーストをかじる。すると、ぱさぱさとした食感に変な味のするケチャップの不協和音が口中に広がる。追いかけるように紅茶がそれを押し込み、後を引き受ける。配給朝食の質は緩やかに低下している気がする。余りにも静かなので、テレビをつけ、丁度やっている何回も目にしたドラマの第35話を流し見する。私はこの後、何が起こるのか知っている。1話から100話まで、どんな話なのか完璧に言うことができるだろう。それでもこのドラマを見る。素敵に時間を消費しようと思ったら、とてもお金が要る。それは私の手に入るような品ではない。つまらない方法による時間の消費は安価で、その代表がこのドラマの視聴だ。30年も前に制作されたドラマの内容は古臭いが、何もしないよりはましなので、話の展開とともに私の寿命を消費する。