小説

『揺れ、そして凪ぐ』リンゴの木(『竹取物語』)

「ほい、じゃあ石山さんとコップ作りを担当してもらおうかな。石山さんと知り合いだったんだよね」
なぜ細竹さんがここに。
「勘弁してくれよ、新入り二人もうちの部かよ」
上司がたるんだ腹を搔きつつ愚痴をこぼす。しかし細竹さんが近づいてくると口元を緩めて歓迎していた。
「また一緒ですね、石山さん」
「そうだね」
もっと頑張ろうと思った。
 材料が工場に運ばれて、完成品が工場から吐き出される。そんな工場がいくつも集まってこの町ができている。モノの流れが血液の循環のようにぐるぐる回って町は呼吸している。顔も見たことのないお偉い人が工場全体に指令を出し、町は動く。細竹さんのおかげで仕事に前向きになった私は生産性がぐんぐん向上し、町の循環に乗せられるかのように、衣服工場、宝石工場へと栄転していった。そしてその度に細竹さんも私についてくるように同じ工場へと遅れてやって来た。
「また一緒ですね、石山さん」
「よろしくね」
「おめでとうございます!頑張ってください」
「ありがとう」
細竹さんと出会ってから1年ほどになる。皆やる気がない中で、一人やる気がみなぎった私が宝石工場の工場長になるのは容易かった。

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