小説

『桃燈籠』青田克海(『桃太郎』)

 意気込んでた権蔵でしたが昨年以上に忙しく赤子を気にする余裕などありません。この一年の働きを評価された権蔵は、主人から重要な役職に抜擢され祭りが円滑に進むようにあれやこれやこなします。
 最終日になり燈籠を乗せた山車が町を練り歩く頃、権蔵は小太郎と共に川で山車が来るのを待っていました。
「結局何もできませんでした」
「お前、相手は神様だぞ」
「そりゃ神様ですよ。わかってますよ。でも身勝手じゃないですか」
「権蔵、神様を悪く言うんじゃね。バチ当たるぞ」
「でも子供はいなくなるんですよ。あまりにも不憫じゃないですか」
「権蔵!」
「でも」
 小太郎がいくら言っても権蔵は聞きません。
「お前は本当にしょうがない奴だな。集中してくれよ。今から山車が来て燈籠を川に流すんだ」
「はい。すみません。でも」
「でもでもでもでもって。はぁ…行けよ。行きたいんだろ」
 ついには小太郎が折れてしまいました。
「小太郎さん、ありがとう」
「この借りは大きいぞ」
 町の人々が行き交う流れを逆走し、権蔵は神社へ向かいました。祈祷を受けた赤子は社の奥の小屋で眠っています。神様の悪戯としてはもってこいの場所なのです。神社に着くと、山車についていったにか誰もいません。小屋を覗きます。赤子が綺麗に並べられすやすや眠っています。どうやら神隠しはあっていないようです。神様と鉢合わせでもして自分が神隠しにあったらと権蔵は内心びくついていました。
「おいおいまだ時間じゃないだろ」
 権蔵が声に振り返るとそこには宮司がおりました。
「え…何だ権蔵か。どうした?」
「子供が神隠しにあったらって。居ても立ってもいれなくて」
「お、おう。そうか…ただここには入るでない。今はまだ清めの時間だ。話なら向こうで聞こう」
 宮司に連れられ権蔵は小屋を後にしました。
「しかしお前の主人が聞いたら呆れてしまうだろうな」
「できれば内密に」
「そもそも神様に背くことなんてできん。これが定めだ。だから諦めろ」
「わかってはいるんですか。何とも」
「わかってないんだよな、お前は。今祭りの最中だ戻らなくていいのか」
「はい、もう少しいようかと。神様に聞いてみたいんです。何で赤子を攫うのかを」
「お前神に会えると思うのか。腑抜けだな」

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