小説

『桃燈籠』青田克海(『桃太郎』)

「食っちまった。だって鬼を見たときからずっと食いたかったんですから。ずるいじゃないですか」
「この基地外が」
 主人の言う通りです。このまま、赤ん坊が死んだら鬼の代わりに食ったのと変わりません。しかし、一度沈んだ桃燈籠が自分の力で流れて行ったのを見て権蔵は奇跡が起きるのかもしれないと思いました。
 後は主人たちに見つからないように送り出すだけです。
「取り押さえろ」
 主人の声に芳兵衛たちは権蔵に飛びかかります。権蔵はもみくちゃにされながらも最期の力を振り絞って笑いました。川に目がいかないように。小さな命を守るために。権蔵は笑い続けたのです。

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